うま)” の例文
実験室の中で、一人でコツコツやっているときには、すらすらと行く実験も、大勢の人の前でやって見せると、決してうまく行かない。
テレビの科学番組 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
逆らってもムダという理を会得するに至って逆わないのであるから、逆らえばもッとうまくいくという理が算定できればさからうのである。
武者ぶるい論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
階段をり、階下の校舍の一部を横切り、それから二つのドアを音を立てないやうにうまけて、まためて、別の階段の所まで來た。
小文さんもうまいことを言つたが、それを盗まなかつた盗賊どろぼうの方は、もつと目が高かつた。——それにまた盗賊どろぼうは腹が空いてゐたのだ。
斉藤平太は人数をうまく組み合せて両方の終る日が丁度同じになるやうにやって置きましたから両方丁度同じ日にそれが終りました。
革トランク (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「箏の裏板へ大きなとびらをつけて、あの開閉で、響きや、音色ねいろの具合を見ようという試みね、うまくいってくれればようござんすね。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「この間の口ぶりでは、うまく行ったら、すぐ江戸へ舞い戻るような話だったが、すると、あの仕事はとうとう失策物しくじりものになったのか」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貞之助はあらかじめ幸子と口を合せて置いたので、うまい工合に言訳をしたが、それでも後の半分は正直な自分の気持を述べたのであった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やっとうまく行きそうな月には、決って英国軍艦が入港し士官等の招宴を張らねばならぬようになる。召使が多過ぎる、という人もある。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
実は君の叔父さんからも種々いろ/\御話が有ましたがね、叔父さんも矢張やつぱり左様さういふ意見なんです。何とか君、うまい工夫はあるまいかねえ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
というのは、最初の時自分は舞踊のあの様式に驚異したのであって、そのためにはスミルノーヴァほどのうまさでも十分だったのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
うまく拵えて膏薬を貼って居て「これだからかつげません」と云うから「手前てめえのくらい力がある」「わたくしは五十人力ある」と云うと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの彫りのうまさ、刷り上げの巧さ、そういうものが重なり重なりして、あの纒まった芸術品が出来上るのですから、私は作家のみならず
「さあ、そこまでは聞きませんでした。なにしろ真人間じゃあねえらしいから。そこはなんとかうまく誤魔化していたでしょうよ」
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
詩も作る、ヴァイオリンもく、油絵の具も使う、役者も勤める、歌骨牌うたがるたうまい、薩摩琵琶も出来るサア・ランスロットである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なるほどなるほど、味噌はうまく板に馴染なじんでいるから剥落はくらくもせず、よい工合に少しげて、人の※意さんいもよおさせる香気こうきを発する。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
この腹癒はらいせには何かうまい口実を見付けて、手当の五十円を半分に引下げてさえしまえば、つまり二人で一人の女を抱えたという名義が立つ
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……口先だけで屁理窟へりくつをこねるのがいくらうまくたって、実行力のない人間はあるかなきかのかげろうだ。なあ。そうだろう?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
田舎にいたおり、村の出入りを扱うことのうまかった父親は、自家うちの始末より、大きな家の世話役として役に立つ方であった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「そうなんだが、あんなにうまくゆくとは思っていなかった。ここで一つ君に頭を下げて置かねばならぬことがあるが……」と彼はちょっとことば
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこ種々いろ/\押問答おしもんだふしましたが、あいちやんのはうでも別段べつだんうま理屈りくつず、こと芋蟲いもむし非常ひじよう不興ふきようげにえたので、あいちやんは早速さつそくもどりかけました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
つまり、すべてはたましいたましい交通こうつうねらったもので、こればかりはじつなんともいえぬほどうま仕組しくみになってるのでございます。
「アメリカの飛行機の映画だと、みんな飛行機を操縦するのが、とってもうまいように見えるんですけどね、大暴風雨の中だって平気なんですか」
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「何といううまい琵琶師だろう!」——「自分達の田舎ではこんな琵琶を聴いた事がない!」——「国中に芳一のような謡い手はまたとあるまい!」
耳無芳一の話 (新字新仮名) / 小泉八雲(著)
文芸上の作物はうまいにしろまずいにしろ、それがそれだけで完了してると云う点に於て、人生の交渉は歴史上の事柄と同じく間接だ、とか何んとか。
ギゾーの古い事は言うまでもないが。ギゾーがかの錯雑さくざつした欧羅巴の歴史の事実をうまく綾にんで概括した、あの力というものは非常なものである。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
何を話したか忘れてしまったが、こんな色の生白なまっちろい若い男があんなうまい文章を書くかと呆気に取られた外には初対面の何の印象も今は残っていない。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
女の事は婦人の作家が書いたならばうまくその真相を写す事が出来るかと申すに、従来これまでの処ではまだ我国の女流作家の筆にそういう様子が見えません。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
実際彼女は自分の秘密を彼に知られてしまったのかといくたびか疑ったほどに、彼の冗談のあるものはうまくあたった。
此処ここで木曜日には特別に舞踏のうま連中れんぢゆうばかりが踊る。其れで平生の入場料は三フラン(一円二十銭)だが、その晩に限つて六フラン取る事につて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
御常は非常にうそく事のうまい女であった。それからどんな場合でも、自分に利益があるとさえ見れば、すぐ涙を流す事の出来る重宝な女であった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「寿」という料理屋の女中で、通人つうにん達にはよく知られた年増、気象の優れたのと、取廻しのうまいので有名な女です。
「速記録なら速記者を頼む方が早い。しかしそこをうま塩梅あんばいして、ガラマサどんの精神を如実にょじつに現すのが君の腕さ」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
竜之助の手から尺八を借りて、ふし面白おもしろく越後獅子を吹き出した。なるほど自慢だけに、竜之助よりは器用でうまいから、一座の連中はやんやと喝采かっさいします。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼がすっかり金を出してしまったことを、しかもあなたのために出してしまったことを、私は存じております。そのやり方は実にうまいものだと思います。
『これ、武村兵曹たけむらへいそう足下おまへはなか/\薩摩琵琶さつまびはうまさうな、一曲いつきよくやらんか、やる! よした。』とかたはら水兵すいへいめいじて、自分じぶんかね御持參ごぢさん琵琶びは取寄とりよせた。
「——いいなアというのは、どういうの。踊りがうまいという意味か。それともその子がいいという意味か……」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
それから、起重機の鎖から危くぶらさがっている物騒ぶっそうな梁に、うま引綱ひきづなをしばりつけなければならないのだ。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
太郎の顔ではないやうに見える——とうまければ巧いほど、何故かゲラゲラと笑つたので、彼はそれ以来母の前ではその楽器を執りあげたがらなかつたのである。
サクラの花びら (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
時たま、なかなかうまい悲鳴をあげたり、上手な死に方を見せたりしましたが、それも瞬間だけのことでね。
伸縮あたかも扇様で清水きよみずの舞台から傘さして飛び下りるごとく、高い処から斜に飛び下りること甚だうまい。
乳母 ほんに、うまいことを被言おっしゃる。事壞ことこはしのため出來できひとぢゃといの! あの、殿方とのがたえ、ロミオの若樣わかさまには何處どこへゐたらはれうかの、御存ごぞんじならをしへてくだされ。
「よろしい。しからば拙者、府中へまかりこし、怪物の正体を見届け、うまく行けば諸氏の敵も討ち申そう。しかし、まかり間違ったら拙者の鼻もいかがでござるか」
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ラヴィニアなどはセエラのその力を大変羨ましがっていましたが、多少の反感を持って近づいて行っても、セエラの話のうまさには、つい酔わされてしまうのでした。
「嫌だよ、阿母さんは!………何んとかうま理屈りくつを何けるんだもの。」とお房は、飜弄まぜつかへすやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかし、私の見るところでは、あなたの遣り口はどうもうまくないようですね。私ならば、もう猶予ゆうよなしに言い出してしまいますがね。こんないい機会は二度とありませんぜ。
言ひ換へれば、氏はあまうますぎて、人間の本當の心理しんりの境を越えて飛躍ひやくしすぎるのでせう。
三作家に就ての感想 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
別れた、女も別れる言うてますとうまく親父を欺して貰うだけのものはもろたら、あとは廃嫡でも灰神楽はいかぐらでも、その金で気楽な商売でもやって二人末永すえなご共白髪ともしらがまで暮そうやないか。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
草刈童は、昔し過つて殿樣御祕藏の鶴の置物の嘴を缺いた小姓のやうに、一時は青くなつて驚きつゝ、元の通りにめてみたけれど、ハンダが取れてはうまくクツ付いてゐなかつた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「あったかね、だが上包うわづつみだけでは安心出来んよ。あいつらはうまくすり変えるからね」
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)