)” の例文
やっと、自動車で宿へ帰って——この、あなた、隣ので、いきなり、いが餅にくいつくと、あつつ、……舌をやけどしたほどですよ。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、旅宿やどやの一で出来るだけ小さくなつて、溜息ばかりいてゐると、次の日曜日の朝、夫人は金糸雀かなりやのやうな声ではしやぎ出した。
みのるは其家そこの主人の應接で久し振りな顏を友達と合はせた。みのるには自分が借りるのだといふ事が何うしても云へなかつた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
「ああなるのも自業自得でしかたがない。」と、母親らは、まだ茶ので茶を呑みながら、今立たしてやった叔父の噂をしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「お梅さんどうかしたのですか」と驚惶あわただしくたずねた。梅子はなおかしらを垂れたまま運ばす針を凝視みつめて黙っている。この時次の
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お春は静かに次のへと退ったがしばしして、秋の空を思えとや、紫紺に金糸銀糸きんしぎんしもて七そうを縫った舞衣まいぎぬを投げかけ金扇きんせんかざして現われました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その間に、嘘かほんとか大げさな話を得意にしてゐるのが、一へだてた三田のところ迄、殘らず聞えて來るのであつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
別荘もりの男から主人と思って大事がられるために、時方は宮のお座敷には遣戸やりど一重隔てたで得意にふるまっていた。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一昨日おとといの晩三人で来て前のうちは策で売らしてしまったから、笠阿弥陀堂かさあみだどうの横手に交遊庵こうゆうあんという庵室あんしつがありましょう、二間ふたまがあって、庭もちっとあり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「どうも又今は空きが一つもございませんで、せっかくの電報でございましたから、この先十町ばかりの湯田中ゆたなかという所へ宿を見付けておきました」
「お父さん、お父さん。」と、次ので病人が途方もない大きな聲を出したので、道臣と千代松とは驚いて顏を見合はした。お駒は顏の色を蒼くした。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
折柄警部は次のにて食事中なりしかば其終りて出来いできたるを待ち突如だしぬけに「長官大変です」荻沢は半拭はんけちにて髭のよごれを
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
ある夜戸叩く音に私が先づ目をまして、また赤痢があつたのかと氣遣ひながら耳を澄ましてゐると、ふすまのない次のに寢てゐた母が寢床から聲を掛けた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「茂七は逃げて行く曲者の後ろ姿をチラリと見た——と言いますが、二階は四もある上、廊下にあかりがないから、男か女か、それさえ判らなかったそうで」
「フフフ。黙ってろ。幕がくから……オヤア……これあ西洋だ……おれア日本にしといた筈だが……」
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
現在六畳と二畳とで十五円の家賃は、六畳一室借まがりにすれば少なくも三円の室代へやだいを切りつめることができると彼はしじゅう、万一の場合の覚悟をきめていた。
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
西向きの一室ひとま、その前は植込みで、いろいろな木がきまりなく、勝手に茂ッているが、その一室はここの家族が常にいるだろう、今もそこには二人の婦人が……
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
しかないあんの中には、三十前後の小柄な男が書見しょけんしていたが、人の跫音あしおとを聞いて顔をあげた。
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かいと謂ツても、ンの六でふで、一けん押入おしいれは付いてゐるが、とこもなければえんも無い。何のことはないはこのやうなへやで、たゞ南の方だけが中窓になツてゐる。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
障子しやうじ一重ひとへの次のに、英文典を復習し居たる書生の大和、両手に頭抱へつゝ、涙のあられポロリ/\
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
無論自分の家ではあるが自分達の住む部屋は前二階の二きりで、奥二階にも店の間にも幾多の家族が借りていたのだ。それでも自分の家であることにかわりはなかった。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
一走ひとはしり行つて来ようかと考へたが、あたまおもく痛むやうなので、次の阿母さんの部屋の八畳のへ来て障子を明放あけはなして、箪笥の前で横に成つた。暑い日だ、そよと吹く風も無い。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
梅月で誰かにくんで遣った湯の返しのなかった事、常磐屋ときわやで大臣さんにお目に懸った事、船で花見の約束に行った事、こちらのからもしきりに笑い声が漏れるようになったが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
竹の自在鍵じざいの煤びたのに小さな茶釜が黒光りして懸つて居るのが見えたかと思ふと、若僧は身を屈して敬虔けいけんの態度にはなつたが、直と区劃しきりになつてゐる襖を明けて其の次の
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
苔で青くなつた石の手水鉢てうづばち家形やかたの置いてあるのがある庭も、奥のも、静かな静かなものでしたが、店の方には若いお針子はりこが大勢来て居ましたから、絶えず笑ひ声がするのでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
孤燈かげ暗き一に壁にうつれる我が影を友にて、唯一人悄然と更け行く鐘をかぞへたらんには、鬼神をひしぐ荒ら男たりとも越し方ゆく末の思ひに迫まられて涙は襟に冷やかなるべし
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と防いでも見たが、遂々顔を真赤にして次のへ逃げた。私も皆と一緒になつて笑つた。暫時しばししてから市子はかろい咳払をして、怎やら取済した顔をして出て来たが、いきなりまた私の前に坐つた。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
院内ゐんないの一わか醫者いしやしゝてゐることは公然こうぜんになつた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
と古い黒塗の枕を出して、そして挨拶して次のへ下つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
夕暮がたのしめやかさ、燈火あかり無きしめやかさ。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
それさえ胸先にみましたのに、「あちらでおやすみなさいまし。」……次ぎのへ座を立たせて——そこが女作家の書斎でしたが。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もちろん一家の主婦が亡くなったあとへ来て、茶のに居坐るほどのものが、好意だけでそうするものとはきまっていなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
坊さんも坊さんなら、居士も居士だと思つた。で、いぬのやうに次ぎの蹲踞かいつくばつて訳を訊くと居士はけろりとした顔で言つた。
其日そのひはそれでわかれ、其後そのごたがひさそつてつり出掛でかけたが、ボズさんのうちは一しかないふる茅屋わらや其處そこひとりでわびしげにんでたのである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
勝手口から上りながら、道臣は臺所の千代松をチラと見て、輕く會釋ゑしやくをすると、次のに入つて、柱の折れ釘に烏帽子えぼしを掛け、淨衣は衝立ついたての前に脱ぎ棄てた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
は僧たちのいる南のにあって、内側の暗くなっている病室へ薫はすべり入るようにして行って、病んだ恋人を見た。老いた女房の二、三人が付いていた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ちなみに焼失したる県立高女の廃屋あばらやは純日本建、二階造の四で、市内唯一の藁葺わらぶき屋根として同校の運動場、弓術道場の背後、高き防火壁をめぐらしたる一隅に在り。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やがて元のに達すれば、くだんのプラトが又寝台の下より出来り歯をむき出して余を目掛け飛掛らんとす、余は其剣幕に驚きて一足背後うしろ退下ひきさがらんとする程なりしが
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
……と、誰れかに呼び立てられたやうな氣がして目を開けたが、左右のには誰れもゐなかつた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
と六畳ばかりの奥のの長火鉢の側へ寝蓆ねござを敷いて夫婦を坐らせ、番茶をいで出す長二の顔をお柳が見ておりましたが、何ういたしたのか俄に顔が蒼くなって、眼がさかづり
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
の広さは前のよりは広い位に思はれたが副室は一つもない。良人をつと此処ここに決めた。五分間もしないうちに荷物が運ばれて、それぞれの所へ配置された。部屋づきの女も来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その手が動かないほどに見えた時はまた思い出した時で、目賀田さんすぐ御飯をあがりますかと、隣のの入口あたりまで来て尋ねる小女に促され、応と云って部屋を出たそこの柱に
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
これは海の中におのずから水の流れるすじがありますから、その筋をたよって舟をしおなりにちゃんとめまして、お客は将監しょうげん——つまり舟のかしらの方からの第一の——に向うを向いてしゃんと坐って
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奥ののうらめづらしき初声うぶごゑに血の気のぼりしおもまだ若き
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夕暮がたのしめやかさ、燈火あかり無きしめやかさ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
そこへ、中仕切なかじきりの障子が、次のあかりにほのめいて、二枚見えた。真中まんなかへ、ぱっと映ったのが、大坊主の額の出た、唇のおおきい影法師。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
正月に着るものを、お銀はその後また四ツ谷から運んで来た行李の中から引っ張り出して、時々母親と一緒に、茶ので針を持っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
床屋は言ひ付けられたやうにあくる日の午過ぎ、その姿で恐る/\公爵邸のしきゐまたぐと、昨日きのふ使者つかひが出て来て一に案内した。
祖父じい様と貞夫はすでに夢もなげに眠り、母上とさいは次のにて何事か小声に語り合い、折り折り忍びやかに笑うさま、小児こどものことのほか別に心配もなさそうに候
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
すみ屏風びょうぶを引きひろかげを作っておいて、妻戸をあけると、渡殿わたどのの南の戸がまだ昨夜ゆうべはいった時のままにあいてあるのを見つけ、渡殿の一室へ宮をおおろしした。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)