すぐ)” の例文
「さあ、金さん」と差し出されたのを、金之助は手に取って見ると、それは手札形の半身で、何さま十人並みすぐれた愛くるしい娘姿。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
空を横切るにじの糸、野辺のべ棚引たなびかすみの糸、つゆにかがやく蜘蛛くもの糸。切ろうとすれば、すぐ切れて、見ているうちはすぐれてうつくしい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
妻は尋常ひとなみより小きに、夫はすぐれたる大兵だいひよう肥満にて、彼の常に心遣こころづかひありげの面色おももちなるに引替へて、生きながら布袋ほていを見る如き福相したり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彼はすぐれたる信仰と正義感とをもちながら、自己の部下ウリヤからその妻バテシバを奪い、それに関連してウリヤを殺したのです。
この第百年はなほ五度いつたびも重ならむ、見よ人たる者己をすぐるゝ者となし、第二の生をば第一の生に殘さしむべきならざるやを 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
大王猿猴の勧めに依って弓を引いて敵に向いたもうに、弓勢ゆんぜい人にすぐれてひじ背中はいちゅうに廻る。敵、大王の弓勢を見てを放たざる先にのがれぬ。
山田氏は福井県の人でまだ年は若かったが、なかなか腕がすぐれ、仕事の激しい人でありました。明治二十三年の博覧会に大塔宮を
赤心まごゝろばかりはびとにまれおとることかは、御心おこゝろやすく思召おぼしめせよにもすぐれし聟君むこぎみむかまゐらせて花々はな/″\しきおんにもいまなりたまはん
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これではチャーチルの命令に応じて、最もすぐれたる世界一の発明兵器として、どれを択んで持ち帰りなばよろしきや、さっぱり分らない。
すぐれて美しい若い女を小間使いとして雇い入れたところ、思いがけなくもその女が二の腕かけて背中一杯朱入りの刺青ほりものをしていたそうで
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すぐれたところをあげれば、才もあり智もあり、物にたくみあり、悟道のえにしもある。ただ惜むところはのぞみが大きすぎて破れるかたちが見える。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
升屋の老人の推測は、お政の天性うまれつき憂鬱ゆううつである上に病身でとかく健康すぐれず、それが為に気がふれたに違いないということである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
致す事なかれ無禮ぶれいは許すそばちかく參るべし我はかたじけなくも當將軍家吉宗公よしむねこう御落胤ごらくいんなり當山中に赤川大膳といふ器量きりやうすぐれの浪人の有るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その代りに、「深く御柔軟ごにゅうなん、深く御哀憐ごあいれんすぐれてうましくまします童女さんた・まりあ様」が、自然と身ごもった事を信じている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
男はハツと顏赤らめて、『すぐれて舞の上手じやうずなれば』。答ふる言葉聞きも了らで、老女はホヽと意味ありげなるゑみを殘して門内に走り入りぬ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「どうもこう近頃のようにすぐれないのは、関羽の霊でもたたっているのではあるまいか——」などと時々気に病んでいたりした。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やゝおもしろさにつりまれて、下品げひんうたもないでもありません。けれども、うたよみとしてはすぐれたひとといふことが出來できます。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
それ/″\すぐれた余技を持っている積りだのに、広瀬君はその天狗の鼻をひしぐ。一種の高等批評家だ。物事を否定するのに興味を持っている。
妻の秘密筥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
馬烟うまげむりときの声、金鼓きんこの乱調子、焔硝えんしょうの香、鉄と火の世の中に生れて来たすぐれた魂魄はナマヌルな魂魄では無い、皆いずれも火の玉だましいだ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されど風景としては、さしてしゝと言ふにてもなく、見ん人の心々にて、寢覺などよりもすぐれたりと思ふもあるなるべし。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
こなひだ内少し気分がすぐれなくてぶら/\してゐたので、つい返事もう出さなかつたが、お前さんは変りがないさうで何よりと悦んでゐる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
その頃は主人の健康もすぐれず、子供も四人いまして、前途のこと、経済上のこと、その他何かと心を苦しめていたのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
二葉亭は芸術的に露西亜のすぐれた世界的大作に負う処があっても思想的に露西亜から学ぶべき何物をも与えられなかった。
二葉亭追録 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
心ざまにわかに高く品性もすぐれたるよう覚えつつ、公判も楽しき夢のに閉じられ、妾は一年有余の軽禁錮けいきんこを申し渡されたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
さあ、貴下あなた、あらためて、奥様おくさまつくなふための、木彫きぼりざうをおつくあそばせ、すぐれた、まさつた、生命いのちある形代かたしろをおきざみなさい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
多助は今年三十一歳、山口屋善右衞門は五十三歳と相成り、主従しゅう/″\したしみの深い事すぐれ、善き心掛けの人ばかり寄りまするとは実に結構な事で。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は、これを証明するために、イギリスのすぐれた経済学者のこの好著をまだ読まないすべての人々に熱心にすすめる。
平次へ一通り報告した上、父親の利助が、とかく身体がすぐれないので、それを一晩見てやるためでもあったのです。
この大獅子金剛宝センチェン・ドルジェチャンという方は大変高徳な方でチベットではこのお方ほど学問のすぐれた方はないという評判であった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
すぐれた智慧をもっている菩薩ひとは、いまし生死をつくすに至るまで、つねに衆生の利益りやくをなして、しかも涅槃におもむかず」
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「あなたはかつて婚約なさいましたが、あなたの気儘で破約なさいました。恰度二年程の前のことですが、それ以来あなたの健康がすぐれなくなりました」
怪談綺談 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
思いなしか私には兄の面もどことなくすぐれぬような、何か陰鬱な空気がここにも満ち充ちているような気がした。
逗子物語 (新字新仮名) / 橘外男(著)
貴方あなたなどは、才智さいちすぐれ、高潔かうけつではあり、はゝちゝとも高尚かうしやう感情かんじやう吸込すひこまれたかたですが、實際じつさい生活せいくわつるやいなやたゞちつかれて病氣びやうきになつてしまはれたです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「勿論、めいめい人間には弱点がありますからね。その代り、あの知事は実にすぐれた人物じゃありませんか!」
一番向うにある大きいマロニエは其背景になつて居る窓の少い倉庫くらの樣な七階の家よりも未だすぐれて高い。木の下は青い芝生で、中に砂の白い路が一筋ある。
巴里にて (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
信長見ると面体すぐれて居るので、何者だと問うと、桑原甚内と云い、嘗つて義元が度々遊びに来た寺の小僧をした事があって、義元をよく見知って居るから
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なんじら天空そらの鳥を見よまくことなくかることを為さず倉に蓄うることなし然るになんじらの天の父はこれを養い賜えり、爾らこれよりも大いにすぐるるものならずや
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かしかりければ、そのころ此の平中にすぐれたる者世になかりけり、かゝる者なれば、人の妻、娘、いかにいはんや宮仕人は此の平中に物云はれぬはなくぞありける
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美くしくもなくすぐれた頭を持って居ると云うでもない京子と気まずい思い一つしずにこの久しい間の交際つき合たもたれて居るのは不思議だと云っても好い事だった。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
だから、一番利口なことは、どこかで、またとないようなすぐれた、足の速い馬を見つけて来ることでした。
それに筋骨のたくましさ、腕力のすぐれていること、まあ野獣と格闘たたかいをするにもえると言いたい位で、容貌かおつきは醜いと言いましても、強いすこやかな農夫とは見えるのでした。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
もし伝教に自身の能力に頼るよりも、自然に頼る精神の方がすぐれていたなら、少くともここより比良ひらを越して、越前の境に根本中堂を置くべきであったと考えた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そういう門戸を張った学者ではなかったけれど、偶然にも我輩は、英学のすぐれた友人を一人持っていたね
一番向むかうにある大きいマロニエはその背景になつて居る窓のすくな倉庫くらの様な七階の家よりもすぐれて高い。木の下は青い芝生で、中に砂の白い道が一筋ある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
先ず俳風の比較もこれ位にて止めて置きますが、その次に京風と江戸風とはどちらがすぐれて居るかという問題が必ず起りましょう。しかしこれは一言で答えられます。
俳句上の京と江戸 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
どこから出たか分からぬように立ち働くのが俺の腕のすぐれた所で、俺は人に姿を見られた事はない。
ニッケルの文鎮 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
武村兵曹たけむらへいそういまわたくしおなじやうに、この軍艦ぐんかん賓客ひんきやくではあるが、かれ軍艦ふねいへとする水兵すいへい——水兵すいへいうちにも氣象きしやうすぐれ、こと砲術ほうじゆつ航海術かうかいじゆつには際立きはだつて巧妙たくみをとこなので
自然の音はまったく、どれもこれも音楽でないものはない、月並な詩や音楽に現わすよりも、自然の音に耳をかたむける方が、どれだけすぐれた感興を覚えるか知れない。
音の世界に生きる (新字新仮名) / 宮城道雄(著)
次第に成長するにつけ、骨格ほねぐみ尋常よのつねの犬にすぐれ、性質こころばせ雄々おおしくて、天晴あっぱれ頼もしき犬となりけり。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
ことにその女の句の方は終点を先に言って始点を後に言っているところにおかしみがあります。とはいえ、それが必ずしも句としてすぐれているというのではありません。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)