)” の例文
たとえば往古おうこ支那にて、天子の宮殿も、茆茨ぼうしらず、土階どかい三等さんとう、もって安しというといえども、その宮殿は真実安楽なる皇居に非ず。
教育の目的 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
蒔絵まきえの所々禿げた朱塗りの衣桁いこうに寄りかかって、今しがた婆やに爪をってもらった指の先きを紅の落ちない様にそっと唇に当て乍ら
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
其晩そのばん宗助そうすけうらからおほきな芭蕉ばせうを二まいつてて、それを座敷ざしきえんいて、其上そのうえ御米およねならんですゞみながら、小六ころくことはなした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、私は蝋燭の芯をつて、また『マアミオン』を讀みはじめた。彼は、程なく、身を動かした。私の眼は、直ぐにそれに惹かれた。
志保は庭へおりて菊をっていた。いつまでも狭霧さぎりれぬ朝で、道をゆく馬のひづめの音は聞えながら、人も馬もおぼろにしか見えない。
菊屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
このテューリップの大量栽培は、花はってロンドン、パリ、ベルリン等へ出すが、目的は球根をアメリカへ輸出するためである。
レンブラントの国 (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
花の落ちた小枝をっているうちに気が付いて、よく見ると、大きさはやっと拇指おやゆびの頭くらいで、まだほんの造り始めのものであった。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「爪をってくれい。」そう主人の命咐いいつけを酔った手つきで、白すねの投げ出されたときは、実際からだが震えるほど、ぞっと嬉しかった。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
平次は頃合をはかつて足を止めると、たもとを探つて取出した得意の青錢、右手はさつと擧ります。朧をつて飛ぶ投げ錢、二枚、五枚、七枚。
子澄が曰く、しからず、燕はあらかじめ備うること久しければ、にわかに図り難し。よろしく先ずしゅうを取り、燕の手足しゅそくり、しこうして後燕図るべしと。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
鶴見が止めどなく長談議をつぶやいていたうちに、娘の静代は梅の枝をって来て、しばらくもてあそんでいて、話の終るのを待ち構えていた。
これもやはり女が二人、隣どうしで機を織っているところへ、例の旅僧が来てその布を何尺とか、ここからってわしにくれと所望する。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
たま/\相見て西窓せいさうしよくる娯しみを得ることもあつたが、然し其人々は皆白頭にして、わたくしとは職業を異にしてゐた。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
幾日も経たぬうちにこの監督さん自身も人から辮子をられて逃走した。剪り取る人達の中には革命軍の鄒容すうようという人もいた。
頭髪の故事 (新字新仮名) / 魯迅(著)
かまいませんよ。それよりまああのなしの木どもをごらんなさい。えだられたばかりなので身体からだ一向いっこうり合いません。まるでさなぎおどりです。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
信長の機嫌はいよいようるわしい。それからも侍臣がしょくること数度だったが、白湯さゆのみ飲みながらなお時の移るも知らない。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この答えをきいた孟母は、いきなり傍の刃物をとりあげると、苦心の織物を途中でってしまった。そして孟子を訓した。
孟母断機 (新字新仮名) / 上村松園(著)
しぼんだ花を鋏でっていると、路地に俥のベルが聞えた。伸子は板塀の切戸をあけて見た。祖母が俥から降りた。伸子は
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
浪子は手に持ちし山百合の花うちまもりつつ「きれい。でも、山に置いといた方がいいのね、るのはかあいそうだわ!」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
黙って爪をっていたり、百人一首の歌を一つ一つ想いだしてみたり、……それに私は工場のような女が嫌いなのです。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
それにこたえるように、どこからか闇をって一つのつぶてが飛んで来て、采女を囲んでいる敵の一人の真っ向を強く撲った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
治「心の証拠と仰しゃっても別に何もありません、と云って、まさか髪をるの指を切るのと云う訳にもきませんが」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
自然薯でも、田螺たにしでも、どじょうでも、終始他人ひとの山林田畑からとって来ては金にえ、めしに換え、酒に換える。門松すらって売ると云う評判がある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ちょうど素麺そうめん位な鉄線を長さ一尺五寸位ずつ七本にってあの図を側へ置きながら小さな擂木すりこぎの頭で互い違いに鉄線の中ほどをまるく曲げて手元の方を
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鼻をこのもしい香りに、編笠をかかげて見返えりますと、僕の肩にかたげられたは、今ての園咲そのざきの白つつじが、白く涼しく匂っているのです。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「ああそう。では、これからいって、あなたの好きな花をってあげましょう。あなた、どんな花、このみますか」
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ひどく小さなつたない字で書いた。それから幸子が月に供えたすすきを一本抜いて、尾花をって巻紙の間へ入れた。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美しい間に、らなければならぬ。あの人を、一ばん愛しているのは私だ。どのように人から憎まれてもいい。
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
嘘を詠むなら全く無い事とてつもなき嘘を詠むべし、然らざれば有の儘に正直に詠むが宜しく候。雀が舌られたとか狸が婆に化けたなどの嘘は面白く候。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
達って抵抗して居れば余の手が秀子の被物の様に挾みられて了うばかりである、エエ残念だと泣かぬ許りに余は手を放した、緑盤は元の通りに塞がった。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
道庵を一室にやすませた青嵐は、また炉辺に寄って来て、燈をって、ひとり書物をひもどきはじめました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
養老元年の紀に、この頃百姓法律に背いて、ほしいままにその情に任かせて髪をびんおろし、たやすく法服を着けて貌を桑門そうもんに似せ、情に奸盗を挟むともみえている。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
刀でりたくなるほど、雨が毎日毎日続いた。階下のおばさんは、毎日昆布の中に辻占と山椒を入れて帯を結んでいた。もう、黄いろいご飯も途絶え勝ちになった。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
そのさま南海諸島の蕃人にも似たるべし。男子は長き羊の皮を、毛を表にして身に纏へり。暗褐色なる雙脚には靴を穿かず、らざる髮は黒き面の邊にひるがへり垂れたり。
お花は、あたしがつて来るから、花瓶を食堂へ揃へといて……。あ、お料理は、ほかから取るからいいの。支那料理だから、お台所の支度、いつもの通りにしてね。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
霞亭はこれをり取つて蘭軒に示した。この剪刀はさみの痕を存した断片は饗庭篁村さんの蔵儲中にある。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
起居ききょ振舞ふるまいのお転婆てんばなりしは言うまでもなく、修業中は髪をいとまだにしき心地ここちせられて、一向ひたぶるに書を読む事を好みければ、十六歳までは髪をりて前部を左右に分け
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
子供の時分爪をるに当って、よく深爪を取るな、と注意された。堅い爪におおわれた肉は、外のところのように皮が厚くないから、ちょっとしたことでも直ぐこたえる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
われはみづから問ひ、自から答へて安らかなる心を以て蓬窓ほうさうかへれり。わがたる群星は未だ念頭を去らず、静かに燈をつて書を読まんとするに、我が心はなほ彼にあり。
一夕観 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
やがて傍近そばちかく寄りて、幾許いかばかり似たるとながむれば、打披うちひらけるはなびらりんとして玉をいたる如く、濃香芬々ふんふんほとばしり、葉色に露気ろき有りて緑鮮みどりあざやかに、さだめ今朝けさりけんとおぼしき花のいきほひなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
持ってきて、それから縫掛けのあわせを今日中に仕上げてしまいなさい……。政は立った次手ついでに花をって仏壇へげて下さい。菊はまだ咲かないか、そんなら紫苑しおんでも切ってくれよ
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
私はこれを「いつまさに共に西牕の燭をりて、かへつて巴山夜雨の時をかたるべき」と読む。
閑人詩話 (新字旧仮名) / 河上肇(著)
兄貴のフェリックスは、うずくまって、金盥かなだらいをゆすぶり、獲物えものを受け取っている。彼らは、雲脂ふけまじって落ちてくる。った睫毛まつげのように細かなあしが、ぴくぴく動くのが見分けられる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
梅花の美しさを述べた後「一枝をらば一指をるべし。」という文が書いてある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
女中が、水を汲んで来ると、美奈子は、その花筒の古い汚れた水を、浚乾かえほしてから、新しい水を、なみなみと注ぎ入れて、り取ったまゝに、まだ香の高い白百合しらゆりの花を、挿入れた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
お重にはさみを借りて縁に投げ出した足の爪を自らったりした。お重と二人廊下に立って春雨に曇った東山を眺めながら、あれが清水の塔だ、あれが八坂の塔だなど、話し合っていたりした。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
みぞの土手にある猫楊ねこやなぎからり落したその太い枝が、今でも、その渠のなかに流れ去らずに沈んで居て、それがしがらみのやうに、水上からの木の葉やら新聞のきれのやうなものなどをきとめて
縮らした前髪を眉の上でり揃えたあとを左右に真二まっぷたつに分けて、白い襟首の上にグルグル捲きを作って、大きな、色のいい翡翠ひすいのピンで止めたアンバイは支那婦人ソックリの感じであった。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
エントホヴェンの『グジャラット民俗記フォークロール・ノーツ』六六頁に、昔インドモヴァイヤの一農、耕すごとに一童男被髪して前に立つを見、ある日その髪をり取ると、彼随い来って復さん事を切願すれど与えず
わが袖も春のひかりの帰らじや牡丹らせてつづみに添へば
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)