ちん)” の例文
峻がここへ来る時によく見る、ちんの中で昼寝をしたり海を眺めたりする人がまた来ていて、今日は子守娘と親しそうに話をしている。
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
瀬戸物のちんだの、睡蓮だの、刺繍の鳥だのを有難がった、安物のモック・オリエンタリズムは、西洋でも追い追い流行はやらなくなった。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして私へは構わずにちんを離れて歩き出した。私はしばらく呆気あっけにとられ老人の姿を見送っていたが気がついて背後うしろから声をかけた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私はそのおきぬさんの家の庭の泉石を隔てたおちんのなかに暮らしていたのであった。私は何だかその土地が懐かしくなってきた。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
自分の胸のあたりへ蛇のようにまといかかっている女の長い黒髪を無雑作むぞうさに押しのけて、頼長はくつを早めてあなたのちんの方へ行ってしまった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
だから、ひとたび脱いだ女草鞋わらじをはき直して、杖や被衣かずきを手に、うまやの横から庭門をまわり、そして人気もないちんへ身を運んで行ったにしろ
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はこれより心のムシヤクシヤするのを追払らふ積りで一際精神めて働らき、昼頃ひるごろまでに美事立派なちんが出来あがり升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
Oさんの別荘の西の方に小さなちんがあつた。それは私の行つてゐる時分に出来たものだが、そこから眺めた八ヶ岳の裾野は見事なものであつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
中庭には琵琶びわのかたちをした池があり、それには石造りの太鼓橋が渡してあるし、芝を植えた築山つきやまには腰掛のちんがあった。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこへ、日時計のついた噴泉が虹をあげ、風は樹々をうごかし、花弁は楽の音にゆすられる。彼は酒気をさまそうと、ぽつねんとちんにいたのだ。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
……その時、向うのちん木蔦きづたのからんだ四目垣よつめがきごしに、写真機を手にした明さんの姿がちらちらと見えたり隠れたりしているのにお前は気がついた。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あるいはまた、禁じられてるにもかかわらず花を摘み取った。朝から眼をつけてる薔薇ばらの花を素早くもぎ取り、それをもって庭の奥のちんへ逃げ込んだ。
そのお寺は大きな木の柱によって支持され、まるで明け放したパヴィリオン〔ちん〕といった形なのだから、前からでも後からでも素通しに見ることが出来る。
ちんのように一棟立っているのであるが、その浴室のことを大変簡素でいいと褒めて行ったのだそうである。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼らは公園の中の休み茶屋の離れのちんを借りて、ままごとのような理想的な新婚の楽しみにふけっていた。
遊動円木 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
本邸は云ふに及ばず広い屋敷内に実に珍らしい建築のちんや別荘をお持ちになつていらつしやることに気付き、とてもただではさういふ建築の内部など拝見出来ない
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
放飼ひに慣れた一番ひとつがひの丹頂が悠々と泉水の合間に遊び、橋を渡つて築山のちんのほとりで居眠りをしたり、翼を伸して梢に駆り空に呼応の叫びを挙げたりしてゐる。
南風譜 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
そこには小さな池があり、杉があり、梅があり、ちんがあるのではなはだ構図がよろしいためだろう。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
いけちん小座敷こざしきれうごのみで、その棟梁とうりやう一度いちど料理店れうりてん其處そこひらいたときのなごりだといた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しかし、その素的すてきな眺望にも増して、私の眼をそばだたせたのはその八畳と四畳半の二間きりのちんのような小住宅こじゅうたくに、どうして引上げられたのか、見事な黒光りをもったピアノが一台
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
画題の中最も多きはちんのある山水、その他あるいは花、あるいは草、あるいは鳥、あるいは船、これらにしばしばほたるとかちょうとかが添えてあるのを見掛ける。まま純紋様のものにも逢う。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
長兵衛がそれと見て中をのぞきに往った。中には縁側付のちん座敷があって、夏なりの振袖をきれいな娘が傍においた明るい行燈の燈で糸車を廻していた。長兵衛は伊右衛門にそれを知らせた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼等は円山の奥まで歩き、ちんに休んだ。亭のある高みの下を智恩院へゆく道が続いていた。その道を越して、もっと広い眺めがひらけている。下の道を時々人が通り、亭の附近は静かであった。
高台寺 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
聚落じゅらく安芸あき毛利もうり殿のちんにて連歌の折、庭の紅梅につけて、梅の花神代かみよもきかぬ色香かな、と紹巴法橋がいたされたのを人〻褒め申す」と答えたのにつけて、神代もきかぬとの業平なりひらの歌は
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一所では篝火の火が、ちんに燃えついて火事を出してい、一所では軍兵同志が、夜討ちと誤信し、疑がい合い、同志討ちをして斬り合っていた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(触れてはならぬものだ)彼はちんを出た。自分に打ち勝ってさらに高い自分へ帰着したさわやかな心もちへ夜風がながれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あちらのちんへお越しなされて、今すこし杯をお過ごしなされてはいかが。わたくし御案内を仕まつります
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昨日、教育博物館からの帰途、私はお寺の太鼓が鳴っているのを聞き、公園の木立の間を近路して、寺院を取まくちんの一つで、奇妙な演技が行われつつある所へ出た。
午飯ごはんをしまつて少し過ぎると、二人の従妹いとこが参り升たから蜀畑たうもろこしばたけを見せ、手製のちんを見せると、二人は慾目よくめで見る私さへ満足するほどに賞揚ほめそやしてくれ升て、私も大分得意になり
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
第三の場合は、シャンゼリゼエで少女たちと遊び疲れて、自分の家への歸り途、四目垣のあるちんの黴くさいやうな臭ひを嗅ぐと、突然、いままで潛伏してゐたイマアジュが浮び上るのだ。
続プルウスト雑記 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
かけはしちんで、はるかにポン/\とおる。へーい、と母家おもやから女中ぢよちうくと、……たれない。いけうめ小座敷こざしきで、トーンと灰吹はひふきたゝおとがする、むすめくと、……かげえない。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
陳はその庭を通って小さなちんそばへ往った。そこに鞦韆ぶらんこたながあったが、それは雲と同じ高さのもので、そのなわはひっそりと垂れていた。陳はそこで此所ここ閨閣おおおくに近い所ではないかと思った。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鶴の青銅の噴水のある池のほとりちんにかけて降る雪を眺めていたら、雪は薄く街の灯をてりかえしていて白雪紛々。紅梅の枝に柔かくつもってまるで紅梅が咲いているような匂わしい優美さでした。
緑と青と、陶器すゑものちん一つ。
パステルの竜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
落花を掃きながら忠蔵はそれとなくちんの方へ寄って行った。亭の中にはお菊がいる。とほんとしたような顔をして当てもなく四辺あたりを眺めている。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから、築山つきやまちんに立ち寄って、近頃とみに茶事がさびれた噂などを宗易が持ち出すと、信長はまた哄笑して
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人びとの群れから遠く離れたあなたのちんへ行ってしばらく休息していたいというのであった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は父の影が見えなくなるとぐ前日こしらへたちんへかけ込んで、声をおしまず泣叫なきさけび升た。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
さっきから、あっちの小高いちんにも、鳥打帽をかぶった若者が頻りに楽焼の下絵を描いている。たった一人で、前に木版ずりの粉本を置き、余念ない姿だ。亭のまわりの尾花がくれにそれが見える。
百花園 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
泉殿せんでんなぞらへた、飛々とびとびちんいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教へられたが、水の音よりせみの声。で、勝手に通抜とおりぬけの出来る茶屋は、昼寝のなかばらしい。の座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
陶器すゑものちん
パステルの竜 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
杜工部の詩をうなった時には湖水に掛けた浮き橋を島の方へいつか渡っていた。橋を渡って島へ上り花木の間に設けられてあるちんの方へ静かに歩いて行った。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それのみか、門前町から山上の途中でも、見晴らしのちんを打ちこわし、附近の娘どもを見れば、狼がにわとりでも追うように、追っかけ廻して歩いてきたとか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泉殿せんでんなぞらえた、飛々とびとびちんのいずれかに、邯鄲かんたんの石の手水鉢ちょうずばち、名品、と教えられたが、水の音より蝉の声。で、勝手に通抜けの出来る茶屋は、昼寝の半ばらしい。どの座敷も寂寞ひっそりして人気勢ひとけはいもなかった。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山門を入ってゆくと、そこのちん、そこの松の木の下に棧敷をはってフタバ幼稚園、何々小学校、特殊飲料組合とびっしり。本堂の右手に紙を下げて薯掘案内所。一坪十六銭。うねが一本の三分の二位。
それをつないでいる幾筋かの廊下や、それを囲繞した植え込みや、その間にともされた石燈籠や、泉水や築山やちんや橋や——下屋敷の様は昔のままであった。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「むごいと思い違えたら、いとどあわれな者をいたずらにまた悲しませよう。久子、内へは上げることはならぬが、庭のちんへでも廻しておけ。わしは後から行く」
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……半ばは葉の陰にかくれたが、ちんごのみの茶座敷らしい。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐ眼の前にちんがあった。亭の縁先に腰をかけ、葉之助の方へ背中を向け、二人の男女が寄り添っていた。一基の雪洞ぼんぼりが灯されていた。二人の姿はよく見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ふと、ことばを切って、二人がそこの陶物床几すえものしょうぎから立ち上がって見ると、ちんのうしろの山吹が微かにゆれていて、真ッ黄色な花の粒がまだホロホロとこぼれている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)