鼻孔はな)” の例文
その秀英の鼻孔はなのあたりに微かな気息いきがあるように感じられた。世高は耳のふちに口をつけてその名を呼んだ。
断橋奇聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
早速履脱くつぬぎへ引入れて之を当がうと、小狗こいぬ一寸ちょっとを嗅いで、直ぐうまそうに先ずピチャピチャと舐出なめだしたが、汁が鼻孔はなへ入ると見えて、時々クシンクシンと小さなくしゃみをする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
出して煙に巻かれて焼け死んだのなら、鼻孔はなの中へ媒や火の粉を吸いこんでるはずだが、こうやって見るとまるっきりそんなものがなくてこの通り綺麗だ。やっぱり殺されたんだぜ
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「どうだい岡村? 海へ行つて鼻孔はなから塩水を飲んだつて始まらないぢやないか。」
眠い一日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
顎十郎は鼻孔はなをほじりながら、うっそりと小屋のうちそとを見まわしてから
懐中から鼻紙を取りだして太い観世撚かんじよりをつくって、それで吉兵衛の鼻孔はなの中をかきまわしていたが、やがてそれを抜きだしてためつすがめつしたのち、十吉のほうへ観世撚のさきを突きつけ
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)