くす)” の例文
それと並んで、花や、果物や、切り割った西瓜や、野豚の頭や、倒さに吊りさげた鴨を描いた大きなくすんだ油絵が壁の半ばを占領している。
作物は何れもひどく威勢をがれた。殊にも夥しいのは桑の葉の被害だった。毎朝、くすんだ水の上を、蚕がぎくぎくうごめきながら流れて行った。
黒い地帯 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
汽車がなつかしい王子あたりの、煤煙ばいえんくすんだ夏木立ちの下蔭へ来たころまでも、水の音がまだ耳に着いていたり、山の形が目に消えなかったりした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「うふふん。どうもこの燻製の肉の色がすこし気に入らぬわい。こんなにくすんでいるやつは、肉が硬くていかん。こいつはきっと、煙っぽくて、喰っている間に、咽喉加答児いんこうカタルを起こすかもしれんぞ」
母が雨戸を二三枚引いたので、そこには昼乍らうすら寒い幽暗いうあんがあつた。暗い襖、すゝびた柱、くすんだ壁、それらの境界もはつきりしない処に、何だかぼんやりした大きな者が、眼を瞑つて待つてゐる。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
ぽしやぽしやしたりくすんだりして
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
くすんだ木造の料理店は、古風な教会の燭台みたいな恰好に轆轤挽ろくろびきにした木の柱で支えられた浅い客好きのする庇の下へチチコフを招き入れた。
またどういう理由わけかしらないが、よくロシアの百姓小屋にしつらえてある、欄干のついた軒下の露台は横へ傾いて、絵にもならないほどくすんでいる。