黒耀石こくようせき)” の例文
首の向きも直さず、濃く煙らして、炉炭の火を見詰めていた娘のひとみ睫毛まつげとが、黒耀石こくようせきのように結晶すると、そこからしとりしとりしずくが垂れた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼女は黒い羽織で顔の輪廓りんかくがひとしお鮮かで、ほおまで垂れた黒髪の下から、なめらかな黒耀石こくようせきのような目が、長い睫毛まつげの陰に大きく潤い輝いていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大きな黒耀石こくようせきの瞳、紅に濡れた唇は、西洋人形の唇の曲線を思わせて、その上品さと無邪気さは、新聞社会などに呼吸する人間とはどうしても思えなかったのです。
自分たちの子供の時分には既婚の婦人はみんな鉄漿おはぐろで歯を染めていた。祖母も母も姉も伯母おばもみんな口をあいて笑うと赤いくちびるの奥に黒耀石こくようせきを刻んだように漆黒な歯並みが現われた。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
真珠や黒耀石こくようせきを追い求めては、果てしない太平洋の真蒼な潮の上を、真紅な帆でも掛けて、恐らくは葦の茎の海図を使用しながら、あるいは、今でも我々の仰ぐオリオン星やシリウス星を頼りに
不由は黒耀石こくようせきのような眸子ひとみに、冷たい光をうかべながら向直った
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安楽椅子のもたれに手を掛けて、中腰に差覗くと、女の顔は何んと言う冷たさでしょう。その黒耀石こくようせきのような瞳を見ただけで、讃之助の全身は凍り付いてしまいそうです。
葬送行進曲 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その黒耀石こくようせきのような眼をまたたくのでした。
判官三郎の正体 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)