馬酔木あせび)” の例文
旧字:馬醉木
栂に交って唐檜、椈、白樺なども少しはあるが、十文字峠の幽邃ゆうすいなるには及ばざること遠しの感がある。馬酔木あせびの大木が多いのには驚嘆した。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
それからまたもヒョロリヒョロリと、嘉門は千鳥に歩き出したが馬酔木あせびくさむらの元まで行くと、またまたグルリと振り返った。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
多分馬酔木あせびというのだろう、白い、房々した、振ったら珊々と変に鳴りそうな鈴形小花をつけた矮樹の繁みとで独特な美に満ちている公園を飽かず歩き廻った。
宝に食われる (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
なるほど笹も竹の影もないが、よく眼につくのは、馬酔木あせびである。大きな馬酔木がじつに多い。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まだ何しろ暑いのでカフェー組合の運動会も在郷軍人の酔っぱらえる懇親会もなければ何にもやって来ない。ただ時に馬酔木あせびの影に恋愛男女がうごめいていたりするだけである。
東京ではさほどにも思わない馬酔木あせびの若葉の紅く美しいのが、わたしの目を喜ばせた。山の裾には胡蝶花しゃがが一面に咲きみだれて、その名のごとく胡蝶のむらがっているようにも見えた。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
馬酔木あせび折つて髪にかざせば昔めき
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
その藤棚の向こう側には、白い花をつけた馬酔木あせびくさむらが、こんもりと茂っているがためか、嘉門の姿は見えなかった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
客間の庭には松や梅、美しい馬酔木あせびかや木賊とくさなど茂って、飛石のところには羊歯が生えていた。
雨と子供 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此山から雲取山までは二時間あれば楽々と行かれる。此処ここを下って西南の小峰を指して登ると、山相が一変して岩が多く、従って尾根が狭く急となり、石楠しゃくなげ馬酔木あせびの曲りくねった枝が行手を遮ぎる。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「〽裏道来いとの笛の音! ……これはこれは北条の若様、ここにおいででござりましたか」こういいながらお狂言師の嘉門が、馬酔木あせびの裾をまわって、二人の傍へ寄って来た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)