頽齢たいれい)” の例文
もはや私は余命幾許いくばくもなき、御覧のごとき頽齢たいれいの老人です。日は暮れて道はなお遠く、研究し残していることは山ほどある。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
実兄はひそかに旅費を贈ってもいいといったほど好意を持っていたが、世間をはばかって見送りに行かず、世田ヶ谷の老人もまた頽齢たいれいをいいわけにして出て来なかった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
尤も唯物主義的に解釈すれば、彼の頽齢たいれいや病なども或は彼の人生観を暗いものにしてゐたかも知れない。
私の如きはもはや八十に近き頽齢たいれいである。もはや死を待つばかりである。経来へきたった八十年という月日は長いようであるが、また短い。生をけてから今日まで、まことに一瞬時である。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
むかし大久保が躑躅つつじの名所であった時分に中どころの植木屋であった葛岡の家も、大久保が町中となり、父がリウマチスを重らして床に就き、間も無く死んでしまってから、頽齢たいれいの祖母と
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
翁が頽齢たいれいに及んで起居自由ならず所謂ヨボヨボ状態に陥って居られても、一度舞台に立たれると、豪壮鬼神の如く、軽快鳥の如しとでも形容しようか。その丈夫な事血気の壮者をしのぐどころでない。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)