静寂しずけさ)” の例文
旧字:靜寂
身動きもせぬ人々のその影は、いまにも沸き起こる悪魔のあらびの一瞬前の静寂しずけさのように、神秘とも凄惨とも云おうようなく見えました。
レモンの花の咲く丘へ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
閃光が瞼を貫いて、裂く様な叫声を聴いたが、一瞬後の室内は、焦げた毛の臭が漂うのみで、さながら水底の様な静寂しずけさだった。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
ケリルはそう言いながらフェルガルに矢を投げつけた、矢がフェルガルの眼に当った、彼は暗黒やみ静寂しずけさを知って息が絶えた。
約束 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
まだ店を開けない町家続きに、今日一日の晴天はれを告げる朝靄が立ち罩めて、明るい静寂しずけさのなかを、右手鎧の渡しと思うあたりに、時ならぬ烏の声が喧しかった。
砂浜は吐き出す莨の煙よりも白く、海は恐しいほど黒い色をしていた。人影は無かった。静寂しずけさの音が耳の奥で激しく鳴っている様だった。海では、五つ六つの漁船の灯がじっと位置を動かなかった。
ひとりすまう (新字新仮名) / 織田作之助(著)
午後の静寂しずけさは一邸に満ちたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
あたりは死んだように静かである。博士の様子を見ていると此の絶体の「静寂しずけさ」の中から何かを聴こうとしているらしい。しかし「静寂」は「静寂」ばかりで他の何事をも語らない。
物凄き人喰い花の怪 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八百八町の無韻むいんいびきが、耳に痛いほどの静寂しずけさであった。
部屋の気勢けはいは殺気を帯び、血腥い事件の起こる前の、息詰るような静寂しずけさにあった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
うすら寒い静寂しずけさである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またもや谷は静寂しずけさに返り、鳥の啼く声さえも聞こえない。畳々じょうじょうと重なりすくすくと聳えた山という山は皆白く、峰という峰も白皚々はくがいがいと空の蒼さに溶けもせず静寂の谷間を見守っている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こういう所にも住む人がある。静寂しずけさ暗黒くらさ、非人情! だがこれもいいかもしれない。恐らく悩みはないだろう」うっとりと仮面おもてへ眼をやった。「まるで生首でも並んでいるようだ」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
で、その後には気味の悪いような、静寂しずけさばかりがこの境地に残った。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
戦いの後の野の静寂しずけさ! びょうびょうと吹くは風である。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
シ——ンと後は絶対の静寂しずけさ
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また静寂しずけさが返って来た。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)