鉤鼻かぎばな)” の例文
するとすぐ眼の前に、みっともない皺くちゃの泣き腫らした顔が見え、その隣には鉤鼻かぎばなおとがいの尖った、歯の一本もない老婆の顔が見えた。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
頭を深く胸の上に垂れているので、ほとんど眼は見えないが、頭を垂れているために重たげな広い額とがっちりした鉤鼻かぎばなとがくっきりと目立つ。
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
主人は痩せた小柄の老人で、鉤鼻かぎばなの眼のひかった男で、そこらに何か落とし物はないかと休みなしにその眼をきょろつかせているような人物であった。
他の一枚は美しい妙齢の婦人で、鉤鼻かぎばなで、ひたいの髪を巻いて、髪粉をつけた髪には薔薇の花が挿してあった。
鼻の附け根には窪味くぼみがなくて、額からすぐに、盛りあがっている。小鼻が小さくて食い上がっている。で、そのために高い鼻が、完全の鉤鼻かぎばなをなしている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と蘇古根横蔵はばちえて、いつも変わることのない、底知れぬ胆力を示した。そして、海気に焼け切った鉤鼻かぎばなを弟に向けて、もとどりをゆるやかに揺すぶるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
眼のつつた、唇の厚い、鉤鼻かぎばなの山本を圭一郎は本能的に厭がつた。上級對下級の試合の折、彼は山本を見事投げつけて以來、山本はそれをひどく根にもつてゐた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
頬骨ほおぼねが秀でて、鉤鼻かぎばなは大きく、おとがいはこけて、下顎したあごは下り、白い大きな眼が突き出ている彼の顔の表情は、一般の事物に対する一種の頑固な無頓着さを示しているとはいえ
シャンパンのキルクがボーイの鉤鼻かぎばなから落下すると私のパートナアが横目をつかってボーイに現金で酒代とチップを渡すように催促して別に靴先につける天花粉の代金十セントを請求する。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)