鉅万きょまん)” の例文
あの男が少壮にして鉅万きょまんの富を譲り受けた時、どう云う志望をいだいていたか、どう云う活動を試みたか、それは僕に語る人がなかった。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
資産しんだいはむしろ実家さとにもまさりたらんか。新華族のなかにはまず屈指ゆびおりといわるるだけ、武男の父が久しく県令知事務めたるに積みしたから鉅万きょまんに上りぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
土蔵や邸の外廓をせばめ鉅万きょまんの富を緊密に包掌して、質実な家格の威容を近郷に示して居る内、一夏の悪疫に家内は大方死に尽して、かやの父である幸吉ばかりが
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かつてここに遊びたる紳商某は足再びその室を出でずして鉅万きょまんの産を蕩尽とうじんしたる事あり。
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
前述驢様の長耳を持ったフリギア王ミダスは貪慾で自分の糞を金に変えたと伝えられ、ローマ帝ヴェスパシャヌスは公事に鉅万きょまんを費やすを惜しまなんだが、内帑ないどを殖やすに熱心してその馬の糞を売り
或人は五百いおに説いて、東京両国の中村楼を買わせようとした。今千両の金を投じて買って置いたなら、他日鉅万きょまんとみを致すことが出来ようといったのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)