鉄鋲てつびょう)” の例文
昔風の鉄鋲てつびょうを打ち並べた堂々たるひのき造りの南堂家の正門内には、粗末な米松べいまつの貸家がゴチャゴチャと立ち並んでいて
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
靴足袋くつたびもなしに鉄鋲てつびょうの靴をはき、鉄輪を検査する番人の金槌かなづちの下に朝晩足を差し出し、外からきた見物人には
ゲリラが出てレールを破壊したり、鉄鋲てつびょうを外したりする。それを排除して進むのだから、遅々として進行がはかどらない。包頭鎮から先は徒歩である。荒涼たる砂漠や枯草のステップを行軍する。
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
おおいかかった葉柳に蒼澄んだ瓦斯燈ガスとうがうすぼんやりと照しているわが家の黒門は、かたくしまって扉に打った鉄鋲てつびょうが魔物のようににらんでいた。私は重い潜戸くぐりどをどうしてはいることが出来たのだったろう。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
まだ新しい背嚢はいのうを負い、手にはふしのあるごく大きなつえを持ち、足には靴足袋くつたびもはかずに鉄鋲てつびょうを打った短靴を穿うがち、頭は短く刈り込み、ひげを長くはやしている。
その時は、看守の重い足音や鉄鋲てつびょうの靴音や、その鍵鎖かぎくさりのがちゃつきや、かんぬきの太いきしりなどでは、私は昏睡こんすいからさめなくて、荒々しい声を耳にあびせられ、荒々しい手で腕をつかまれた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)