金紗縮緬きんしゃちりめん)” の例文
信一郎は、淡彩に夏草を散らした薄葡萄色うすぶどういろの、金紗縮緬きんしゃちりめんの着物の下に、軽く波打っている彼女の肉体の暖かみをさえ、感じ得るように思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから、今引き出した金紗縮緬きんしゃちりめんの長襦袢を取って、それをふわりと肩にまとって、体中をもくもくさせながら、下に着ていたメリンスの方を、するすると殻を脱ぐように畳の上へ落します。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
長方形の印度更紗いんどさらさをかけたたくがあってそれに支那風しなふう朱塗しゅぬりの大きな椅子いすを五六脚置いたへやがあった。さきに入って往った女は華美はで金紗縮緬きんしゃちりめんの羽織の背を見せながらその椅子の一つに手をやった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夫人の身体をおおうている金紗縮緬きんしゃちりめんのいじりかゆいような触感が、衣服きもの越しに、彼の身体にみるように感ぜられた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
瑠璃子は、その問を無視したように、黙って椅子いすから立ち上ると、鉄盤でおおうてあるストーヴの前に先刻三度目に着替えた江戸紫の金紗縮緬きんしゃちりめんそでを気にしながら、うずくまった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)