野暮天やぼてん)” の例文
一文二文の投げ銭でも、贔屓ひいきとあって下さる物ならありがてえが、おまはんみたいな野暮天やぼてんの袂クソなんざ、くれるといってもお断りだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間は死期が近づくにつれて、どんなに俗な野暮天やぼてんでも、奇妙に、詩というものに心をひかれて来るものらしい。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
……いやそれゆえあの獲物を、全部貴殿よりお返しを願い、一人で得分とくぶんしようなどとは、決して決して申しませぬ。それほどわれらも野暮天やぼてんではござらぬ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さても気楽な精神病キチガイ医者だよ。ならば治療の仕方はどうかと。心配するだけ野暮天やぼてん、素人。これも、やっぱり診察同様。盲目めくら探りの真っ暗闇だよ。すぐに脳天砕かぬところが。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「さうだ/\、其のとほりの野暮天やぼてんなんだから、是非花ちやんの済度さいどを仰ぐのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
御気ごきわったら御勘弁。一ツ差上げましょう」とさかずきを奉まつる。「草葉の蔭で父上が……」とそれからさわりで行くところだが、あの時はどうしてあの時分はあんなに野暮天やぼてんだったろう。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「おじさんは野暮天やぼてんだから、まだ吉原を見たこともねえのさ。だが、まさかお前たちだって、あのくるわの中じゃないだろう」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有難い事には野暮天やぼてんではなかった。寄り添う代わりに坐り直した。と、お色がスッと立った。裏の障子を引き開けた。眼の前に隅田が流れていた。行き交う船! 夕焼け水!
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)