酷吏こくり)” の例文
一はその下僚の温良にして民に近き能吏のうり多く、他は精刻苛佻かちょうややもすればけつ以て直となし、察以て明となす酷吏こくり多し。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
硬骨漢こうこつかん汲黯きゅうあんが退いた後は、帝を取巻くものは、佞臣ねいしんにあらずんば酷吏こくりであった。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
わたくしは枇杷の花を見ると共に、ふと鳥居甲斐守とりいかいのかみの逸事をおもい出した。鳥居甲斐守は老中水野越州えっしゅうが天保改革の時、江戸町奉行の職に在り、一せいうらみを買って、酷吏こくりと称せられた人である。
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それに、自矜心じきょうしんの高い彼にとって、彼ら小人輩しょうじんはいは、怨恨の対象としてさえ物足りない気がする。彼は、今度ほど好人物というものへの腹立ちを感じたことはない。これは姦臣かんしん酷吏こくりよりも始末が悪い。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)