さかの)” の例文
否、その前逢った時既に、と思い出した。代助は二人の過去を順次にさかのぼってみて、いずれの断面にも、二人の間に燃る愛の炎を見出みいださない事はなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いく百万年にもさかのぼる地質時代のことだが、われら草木の祖先は、そのつめたい流動体の背を借りて、大地から大地へ、峰から峰へと、子孫をひろめて行ったのが、今俺たちのこうして
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
それを更に効果的にしたのが村松銀之丞であるが、両者の関係を語るには十六七年ほど昔へさかのぼらなければならない。……永井家の屋敷は大手筋の端にあり、すぐ裏が足軽の組長屋になっている。
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
額から始まって、平たい頬を塗って、あごから耳の附根つけねまでさかのぼって、壁のように静かである。中にひとみだけが活きていた。くちびるべにの色を重ねて、青く光線を反射した。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
橋本のあと食付くっついて手拭てぬぐいをぶら下げて、この橋を渡った時、板の真中で立ち留まって、下をのぞき込んで見たら、砂が動くばかりで水の色はまるでなかった。十里ほどかみさかのぼるとあゆれるそうだ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)