輻射ふくしゃ)” の例文
ガス分子論の胚子はルクレチウスの夢みた所である。ニュートンの微粒子説は倒れたが、これに代るべき微粒子輻射ふくしゃは近代に生れ出た。
およそ頭脳を持つ生物は、それが頭脳を使用したときには、その思考に応じて特有な電波を輻射ふくしゃするというのである。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
砂は灼熱しゃくねつの太陽にられて、とても素足で踏むことも出来ぬ位。そして空気もその輻射ふくしゃでむーっと暑かった。
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
つまり昔かつて在つた光なり熱なりが時の推移といふ妖しい靄の層を透して屈折したり輻射ふくしゃしたりして此方に達した幻影だけが、生きてゐるのではないかしらと考えて見ることがあつた。
水と砂 (新字旧仮名) / 神西清(著)
それも考えて見れば当然なのであって、自然の場合には空気が冷えていて、結晶熱は対流と輻射ふくしゃで取り去られて結晶が生長するのである。それをするには室全体をつめたくするのが一番簡単である。
雪を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
海陸風の原因が以上のとおりであるから、この風は昼間日照が強く、夜間空が晴れて地面からの輻射ふくしゃが妨げられない時に最もよく発達する。
海陸風と夕なぎ (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
脳波は、泉から流れ出す清流せいりゅうのように空間に輻射ふくしゃされていたのだ。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
前夜にたてた風呂ふろの蒸気がへやにこもっているところへ、夜間外気が冷えるのと戸外への輻射ふくしゃとのために、窓のガラスに一面に水滴を凝結させる。
日常身辺の物理的諸問題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今年の夏房州ぼうしゅう千倉ちくらへ行って、海岸の強い輻射ふくしゃのエネルギーに充たされた空間の中を縫うて来る涼風に接したときに
進んで熱の器械的当量が数量的に設定されるまで、それからまた同じように電気も、光熱の輻射ふくしゃも化合の熱も
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
熱の輻射ふくしゃも無線電信の電波も一つの連続系の部分になってしまって光という言葉の無意味なために今では輻射線という言葉に蹴落けおとされてしまったのである。
物理学と感覚 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
プランクはさらにこれを無限な光束の集団に拡張して有名な輻射ふくしゃの方則を得たのは第二の進歩であった。
ブンゼン燈のバリバリと音を立てて吹き付ける焔の輻射ふくしゃをワイシャツの胸に受けながらフラスコの口から滴下する綺麗な宝石のような油滴を眺めているのは少しも暑いものではなかった。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)