躊躇ためらい)” の例文
幾度か出入りしているので、やみにも何の躊躇ためらいなく、そこをチョコチョコとはい上がった次郎が、やがて首を出した所は、洞然たる一宇の堂内。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と太郎は躊躇ためらいもせずそれを左の方へ曲がって行く。こうして行くこと一町余また十字路へ現われた。と太郎は左へ曲がる。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしは自分が二度と替えられない終身の職に就いたことに対しては、なんの躊躇ためらいも感じていませんでした。私はただ心の喜びと、胸のおどりを感じていました。
いったんかくと決めた心は、もはや微塵の身動みじろぎだにもせず、何らの躊躇ためらいをも感じていたわけではなかったが、同時に、また別段より緻密なる犯行を考えていたわけでもない。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
さすがに若い人達は自分等の書いたものをじるようにして、躊躇ためらいがちにそれを取出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
前へ一歩ひとあしうしろ一歩ひとあし躊躇ためらいながら二階を降りて、ふいと縁を廻わッて見れば、部屋にとばかり思ッていたお勢が入口に柱に靠着もたれて、空を向上みあげて物思い顔……はッと思ッて、文三立ち止まッた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
彼はさらに——と、思い当ると、躊躇ためらいもなく、男衆にいいかけた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
あいつの躊躇ためらい、あいつの部下の軽はずみ
与兵衛からうけた恩義を思えば、こう云うのが当然である、何の躊躇ためらいもない筈だ。——が、答えて後、新九郎はひそかに頼みにされる自分の腕を危ぶんだ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)