かかと)” の例文
松崎が、立寄った時、カイカイカイと、ちょうど塀の内で木が入って、紺の衣服きものに、黒い帯した、円いしりが、かかとをひょい、と上げて、頭からその幕へ潜ったのを見た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
東京は目のくらむ所である。元禄げんろくの昔に百年の寿ことぶきを保ったものは、明治のに三日住んだものよりも短命である。余所よそでは人がかかとであるいている。東京では爪先つまさきであるく。逆立さかだちをする。横に行く。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
族長カボラルは聖句も読みあげ、死人のかかとに油を塗り、柩の蓋をすると、六人のコルシカ人は柩をかつぎあげ、低い声で鎮魂歌レクエイムを合唱しながら墓地カンポサンタの方へ、夕星の瞬く丘の横道をゆるゆるとのぼっていった。