贅六ぜいろく)” の例文
オイ贅六ぜいろく! 俺たちは物好きで昼の日中に灯を持って歩くのじゃないんだ。まったく東京に較べると大阪の街は暗くて歩けねえんだ。
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
一面にはキビキビした江戸前の所を見せながら、一面にいかにも不得要領な急所の分らない贅六ぜいろく式なところのある彼乱歩は正に一種の怪物である。
キビキビした青年紳士 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
明日の合戦幸先さいさきよし、上方では初陣ういじん、ここでがんりきの腕を見せて、甲州無宿の腕は、片一方でさえこんなもの、というところを贅六ぜいろくに見せてやる。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
第一、そんなことにしてからが味よりもかさで、すぐ少ないの多いの唄にまで歌ってやがる贅六ぜいろく根性がかたじけない。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
なあ、八つ化けの仙次さん、あんたは見くびってのことかしらねえが、江戸のならずものぁ贅六ぜいろくのぐにゃぐにゃたあ、ちっと骨っぷしのできが違ってますぜ。
奴なきお夏さんは、撞木しゅもくなき時の鐘。涙のない恋、戦争のない歴史、達引たてひきのない江戸児えどっこ、江戸児のない東京だ。ああ、しかし贅六ぜいろくでも可い、私は基督教キリストきょうを信じても可い。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのばけ物は、おいらが、江戸で名代の女白浪しらなみだと、まさか気がついてはいなかったろうが、贅六ぜいろく風情ふぜいに、邪魔立てをされて、このまま引ッ込んでいたんじゃあ、辛抱がならぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
好きで酔うと贅六ぜいろく句調で、変な唄ばかり歌う。A博士は電気学者で京都の大学教授である。髪をキッと分けて、角ばったあごの、眼鏡の奥に謹直らしい眼を光らしている。絶対に禁酒家である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
で僕はむくむく起きあがると贅六ぜいろくらしくだらしなく身繕みづくろいして、そっと自分の服装を見たんだが、カバレット・トア・ズン・ドルの歴史がべたべたそのまま張られているのに気がついたのです。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
「べらぼうめ! 安けりゃ買おう、高けりゃよそうというような贅六ぜいろくじゃねえんだ。たけえと聞いたからこそ買いに来たんじゃねえか。夫婦めおと一対で、いくらするんだい」
というのは、お角さんは、啖呵たんかは切れて、鼻っぱしの強いことは無類であって、この点では贅六ぜいろく人種などに引けを取る女ではないが、悲しいことには字学の方がいけない。
「うぬッ、きさまだったか。こうなりゃもう百年めだ。黙ってさっき聞いてりゃ、ぐにゃぐにゃの贅六ぜいろくなんかときいたふうなせりふぬかしゃがって、とれるものならみごととってみろッ」
どう考えてもあっしゃ上方贅六ぜいろくのそのきっぷが気に入らねえんです。
右門捕物帖:23 幽霊水 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)