象徴シムボル)” の例文
それから、第一主題テーマが、恰であそびだ。魂に触れる何物もないぢやないか。何らの象徴シムボルがない。……憧憬もない、と云つてまた倦怠アンニユーのメランコリアもない。
眠い一日 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼女は肉の上に浮び上ったその微笑が何の象徴シムボルであるかをほとんど知らなかった。ただ一種の恰好かっこうをとって動いた肉その物の形が、彼女にはうれしい記念であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とりもなおさず、これが今度の降矢木事件の象徴シムボルという訳さ。犯人はこの大旆たいはいを掲げて、陰微のうちに殺戮さつりくを宣言している。あるいは、僕等に対する、挑戦の意志かもしれないよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
われわれの客間パーラーの言葉そのものがすべてのその活力をうしなってまったくお愛想パーレーヴァーに堕落してしまうのではないかと思われ、われわれの生活はその象徴シムボルからそんなに遠方を通り去り
雪の象徴シムボルとおもう白樺の幹の、まともに、雲透きの夕日をうけた美しさ、岸の落葉松には、霧を吹っかけたように柔かく緑が萌えて、水に沿うたヴィルラには、石楠木しゃくなげがもう咲きかけている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
きょうもまた雨の糸で縫いこめられる象徴シムボルのように。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ああ暗示あんじ……えもわかぬ夢の象徴シムボル
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「四角の光背は、確か生存者の象徴シムボルでしたね。そして、その船形のものは、古代埃及エジプト人が死後生活の中で夢想している、不思議な死者の船だと思いますが」と云うと、鎮子は沈痛な顔をしてうなずいた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)