“諸有(あらゆ)” の例文
私は人がよく後指(うしろゆび)さして厭(いや)がる醜い傴僂や疥癬掻(ひつッかき)や、その手の真黒な事から足や身体中はさぞかしと推量されるように諸有(あらゆ)る汚い人間
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
これ神を恐れず、人を恐れず、諸有(あらゆ)る世の美徳を罵り尽せし、惨酷なる、将(は)た、勇敢なる、反抗と汚辱との石像に非ずして何ぞ。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
仏蘭西(フランス)で見ると同じやうな蒼(あを)い黄昏(たそがれ)の微光は甲板上の諸有(あらゆ)るものに、船梯子(ふなばしご)や欄干や船室の壁や種々(いろ/\)の綱なぞに優しい神秘の影を投げるので
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
稽古本(けいこぼん)で見馴れた仮名より外には何にも読めない明盲目(あきめくら)である。この社会の人の持っている諸有(あらゆ)る迷信と僻見(へきけん)と虚偽と不健康とを一つ残らず遺伝的に譲り受けている。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こは浮世絵のみならず江戸平民の諸有(あらゆ)る美術文学を通じて現はれたる特徴にして
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
晴れた空には早や秋の気が十分に満渡(みちわた)っているせいか銀河を始め諸有(あらゆ)る星の光は落ちかかる半輪(はんりん)の月よりもかえって明(あかる)く、石燈籠(いしどうろう)の火の消残る小庭(こにわ)のすみずみまで隈(くま)なく照しているように思われた。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)