角隠つのかく)” の例文
中には当夜の花嫁、浪人秋山佐仲の娘お喜美が、晴着の胸を紅に染めて、角隠つのかくしをした首をがっくりと、前にのめっているのも痛々しい姿でした。
きいた風な若旦那は俳諧師はいかいしらしい十徳じっとく姿の老人と連れ立ち、角隠つのかくしに日傘をかざしたうわかたの御女中はちょこちょこ走りの虚無僧下駄こむそうげた小褄こづまを取った芸者と行交ゆきちがえば
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
角隠つのかくしをつけた花嫁はなよめが一人、何人かの人々と一しょに格子戸を出、静かに前の人力車に乗る。人力車は三台とも人を乗せると、花嫁を先に走って行く。そのあとから少年の後ろ姿。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たね子は角隠つのかくしをかけた花嫁にも時々目をそそいでいた。が、それよりも気がかりだったのは勿論皿の上の料理だった。彼女はパンを口へ入れるのにも体中からだじゅうの神経のふるえるのを感じた。
たね子の憂鬱 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)