衣桁えかう)” の例文
羽織を脱がし衣桁えかうへかけて、平次の身體を床の中へ横たへると、上から蒲團を掛けて、トントン二つ三つ輕く叩きます。
煤けた古壁によせて、昔からあるといふ衣桁えかうには若い人の着るものなぞが無造作に懸けてある。其晩は学校友達の婚礼とかで、お志保も招ばれて行つたとのこと。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わたしの通されたへやは、奥の風通しのい二階であつた。八畳の座敷に六畳の副室があつた。衣桁えかうには手拭が一すぢ風に吹かれて、まづ山水さんすゐふくが床の間にけられてあつた。
父の墓 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
幻の民五郎は、唐紙や屏風びやうぶの繪の中へも溶け込み、衣桁えかうや衣紋竹の着物の中へも消えて無くなると言はれました。
姿も、形も無い曲者が、嚴重な締りを開けて入つて、好きな物を盜つて、衣桁えかうの着物に溶け込むやうに隱れたのですもの、幻の民五郎とでも思はなければ、この眼がどうかして居ります