蒐集品しゅうしゅうひん)” の例文
売り惜んだ彼が最後に気に入りの蒐集品しゅうしゅうひんで部屋の中を飾った。それでも狭い部屋の中は一ぱいで猶太人ユダヤじんの古物商の小店ほどはあった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
祖父の左の二の腕に桃の実の小さい刺青いれずみのあったのを覚えている。骨董道楽こっとうどうらくで、離れの床の間には蒐集品しゅうしゅうひんがごたごた置いてあった。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
史的に見てこれらの蒐集品しゅうしゅうひんは、何か将来の研究者に役立つであろう。だが物を集め調べるそのことに私たちの意向の中心が在ったのではない。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
吾人の蒐集品しゅうしゅうひん中にてその一例を求むれば、空に連なる薄暗き夜の山は濃き紫に、前方なる河水かすいは黒き藍色にいろどられたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大きな机をまん中に、四、五脚の椅子を並べた部屋で、窓のある側を除いた両側の棚に、世界の国々の、あらゆるおもちゃを集めたらしい、珍らしい蒐集品しゅうしゅうひんがあって、英夫はまず目を見はった。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「闇、わしもこれで、六十年、天下の珍物を採集するに骨を折ってまいった。わしの蒐集品しゅうしゅうひんはまあ、どんな貴顕の宝蔵にも劣りはせぬつもりだ。大ていの品では、わしをおどろかすことは出来まいよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼が独身生活を続けるのも、そこから来るのであったが、情慾は強いかして彼の描く茫漠ぼうばくとした油絵にも、雑多にあつめられる蒐集品しゅうしゅうひんにも何かエロチックのにおいがあった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
退職官吏Yの考へでは、自分の蒐集品しゅうしゅうひんことにこまかい細工ものゝ昔人形や、壊れものゝすえもの類は、骨董こっとう美術品商の娘であるかの女のれて丹念な指先が、手入れ保存に適当だと思つたからであつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)