菊石面あばたづら)” の例文
なるほど、菊石面あばたづらの赤いきたない疱瘡の神が、まるで大きな章魚たこのやうに王様のお体に、ぴつたりと吸ひ付いてをります。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
「ぐじゃっぺは菊石面あばたづらのことです。行って見たら痘痕があるからいやだというのです。種痘しゅとう以前からある歌と見えますな」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
びっくりした松川源十は、菊石面あばたづらをふくらませて、膝を乗りだした。ほかの連中の眼も、ぎらぎら光っている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「それを掘り当てようため、十人の雛妓が懸命に穿ほじる箸の尖で、あの結構なお庭が一とき菊石面あばたづらになったわけ」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
吾々の菊石面あばたづら面皰にきびも地下に眠らせるほどみにくいものでないやうな気がしました。
先生は色の黒い菊石面あばたづらで、お媼さんは四角い白っちゃけた顔の、上品な人で、昔は御祐筆ごゆうひつなのだから手跡しゅせきがよいという評判だった。御新ごしんさんはまだ若くって、可愛らしい顔の女だった。
菊石面あばたづらの四十男、喜介がヒョイと顔を出した。「へいへいこれはお色さん」
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、ヌーツと自分の菊石面あばたづらを突出し、今度はギヨツと寒がらせたと云ふ。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
重い疱瘡はうさうにかゝつていらつしやるのを知らないか? あの菊石面あばたづらの赤い疱瘡神は、王様のお体に、その一万もある針を、すつかりさしこんで、毒を入れてゐる。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
と、もう、菊石面あばたづらを真赤に染めている源十が、すこし、声を落した。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「六ゾロの源」は、びっくりして、菊石面あばたづらの長い顎をつまんだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)