苦汁くじゅう)” の例文
そして、そうした虚偽がさらに新たな苦汁くじゅうとなってかれの胸の中を流れ、つぎからつぎに不快な気持ちをますばかりだったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
やがて、木工助は、苦汁くじゅうを吐くように、そう答えた。いや、うめいたといったほうがよい。それほど、語るには苦しい事情でもあるらしい。
共産主義者としての彼はまだ若く、その上にいわばインテリにすぎなかったから、実際生活の苦汁くじゅうをなめつくし、その真只中まっただなかから自分の確信を鍛え上げた、というほどのものではなかった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
肝臓からにじみ出る不快な苦汁くじゅうに、内臓の諸機能もめるような動悸をきざみ、一瞬いっとき、それが実にいやな顔いろになって、彼のおもてを通りすぎた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道三は、苦汁くじゅうをなめたように、黙ってしまった。堀田道空も、春日丹後も、肌着に汗をにじませていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それと共に、苦汁くじゅうをのむような堪忍かんにんふるえが体のなかを廻った。しかし今は——
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)