脂燭ししょく)” の例文
そして、嫁方の庭燎にわびの火を、途上で、こちらの脂燭ししょくに移し取った騎馬の使者は、それを先に持ち帰って、初夜のとばりの燈台に点火しておく。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
聟どのの家から大事に消えぬように持って来た脂燭ししょくともしを、すぐ婚家のが、その家の脂燭に移しともして、奥へかけこんでゆく。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
松明たいまつのほかに、脂燭ししょくの用意もしてありましょうな。裸火にしては持ち歩けぬゆえ、消えぬよう、明りに紙覆おいをかけて、嫁君のお家まで持ってゆく。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時ならぬ兄の訪れと聞いて、正季は脂燭ししょくを手に、自身迎えに出て来たが、その小さい灯も、雨音に消されそうだった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
在房は脂燭ししょくの揺れを手のひらでかばいながら、遠くの琵琶へ耳をすまして、やがて宮のご不審へ答えて言った。
あちらにも脂燭ししょくの御用意がしてあるはずゆえ、御挨拶といっしょに、そのあかりを、あちらの物に移し、三日三晩は、消えぬよう、神棚にあかあかとぼしておくのでござりますぞ——おわかりかの。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宮の足もとを脂燭ししょくで照らしながら、かがみ腰で先にあるいていた式部の権ノ大夫在房ありふさは、中坪へ面する廊へかかると、雪がうッすらと通り道にまで吹きこんでいるところもあったので、そのたびには