肺尖はいせん)” の例文
元来欧洲航路のカーゴボートの一等運転手チーフメートであったのが肺尖はいせんわずらった揚句あげく、この病院の新聞広告を見て静養しに来たものだそうである。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なにたいした事はない、熱がなけりゃ学校へ行ってもいい。少しは肺尖はいせんが悪いばかりだ、力を落とすことはないといいます。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
警察医は、鶏の料理をでもするように、馴れ切った冷静な手付きで、肺や心臓や胃腸など一通ひととおり見た上で、女に肺尖はいせんカタルの痕跡があるといいました。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
医者はオリヴィエを聴診して、肺尖はいせんに少し炎症を発見し、患者の背中にヨードチンキの塗布をクリストフへ頼んだ。
その頃私は肺尖はいせんを悪くしていていつも身体に熱が出た。事実友達の誰彼だれかれに私の熱を見せびらかすために手の握り合いなどをしてみるのだが、私の掌が誰のよりも熱かった。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
規矩男自身と云えば、規矩男は府立×中学を出て一高の×部へ入り、卒業期に肺尖はいせんを少し傷めたので、卒業後大学へ行くのをしばらく遅らして、保養かたがた今は暫く休学しているのだという。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
肺尖はいせんの呼吸音は澄んで、一つの雑音も聞えたことはなかった。
(新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「……第一あばら。……第二肋。……うむ別に異状なし。……肺の臓? ええと待てよ…… ふむ、なるほど。ちとあぶなかったな。……しかし、まずまず危険には遠い。……あっ、しまった! 肺尖はいせんが! ……」
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その上今日こんにちは今までとは違い、他の医者にてもらい候うところ、肋膜ろくまくはうまくなおった、盲腸もうちょうもなんともない、ただ肺尖はいせんが少し悪い、養生しろと申され候う。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
それが来たのだ。これはちょっといけなかった。結果した肺尖はいせんカタルや神経衰弱がいけないのではない。また背を焼くような借金などがいけないのではない。いけないのはその不吉な塊だ。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)