股火またび)” の例文
総門の両側には、むしろがこいの駕屋かごやたまりがある。そこにも、二、三名の侍が、股火またびをしながら、総門の出入りを睨んでいた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
寒くなると、爺さんは下駄棚のかげになった狭い通路の壁際で股火またびをしながら居睡いねむりをしているので、外からも、内からも、殆ど人の目につかない事さえあった。
草紅葉 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふちの焦げた火鉢に、股火またびをして当っていたのが、不精らしく椅子を離れて、机の上に置いてあった角燈を持って、「そんならこっちへお出でなさい」と云って、先きに立った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そのまん中には、薄暗い十燭の電燈がブラ下がっていたが、その下に据えられた大火鉢に近く、二人の男が長椅子を引き寄せてさし向いになりながら股火またびをしているのであった。
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこは、御成街道おなりかいどう広小路ひろこうじにかわろうとするかどであった。一方に、湯島天神ゆしまてんじんの裏門へ登る坂みちが延びていた。そこのところに、つじ待ちの駕籠屋かごやが、戸板をめぐらして、股火またびをしていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
番太郎の庄七は、番小屋の土間で股火またびをしながら、台所の物音へ、うどんの催促をしていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なぶられたり打たれたり、昼は股火またびをして退屈している川番所の番太郎や船手の同心に、さんざん売女扱いに調べられた上、お蝶が永代の番屋を放たれたのは、その翌日のひる過ぎでした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)