老イタル者ハからかさにな竿さおヲ擁シテ以テおのレガ任トナスといひ、於戯ああ翠帳紅閨すいちょうこうけい、万事ノ礼法異ナリトイヘドモ、舟中浪上、一生ノ観会かんかいレ同ジ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこでこの奇妙な新婦新郎は、誰も知らない秘密にさらに快い興奮を加えつつ、翠帳紅閨すいちょうこうけいに枕を並べて比翼連理ひよくれんりの語らいに夜の短かさを嘆ずることとはなった。
ヒルミ夫人の冷蔵鞄 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
と言う、こうの煙に巻かれたように、ひざまずいて細目に開けると、翠帳紅閨すいちょうこうけいに、枕が三つ。床の柱に桜の初花。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
潮風に吹かれれば玉の肌は荒れ果てて、翠黛紅顔すいたいこうがんの容色もとみに衰えてゆく。翠帳紅閨すいちょうこうけいの美殿に臥した身はいま、潮風にはためく葦すだれの小屋の中で、土の上に寝て波の音を聞く生活である。
渠等かれらやしろの抜裏の、くらがり坂とて、穴のような中を抜けてふとここへあらわれたが、坂下に大川一つ、橋を向うへ越すと、山を屏風びょうぶめぐらした、翠帳紅閨すいちょうこうけいちまたがある。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)