繋累けいるい)” の例文
わが臆病おくびょうなる心は憐憫れんびんの情に打ち勝たれて、余は覚えずそばに倚り、「何故に泣きたもうか。ところに繋累けいるいなき外人よそびとは、かえりて力をやすきこともあらん」
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それではたまらぬと、そこで兄藤次郎にはすまぬと影に手を合わせながら、わざと種々の放埓ほうらつに兄を怒らせて、こうして実家いえへもよりつかずに繋累けいるいを断った栄三郎ではないか。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
……とは云えこうなった上からは繋累けいるいのないおのれ一人! 気安く何んでもしてのけられる……要害堅固の葡萄大谷、出口入口人数の配置、弾正太夫の居城しろの様子、天蓋山の吟味所まで
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一日の出営を許されたるにぞ、渠は父母無き孤児みなしごの、他に繋累けいるいとてはあらざれども、として幼少より養育されて、母とも思う叔母に会して、永き離別わかれおしまんため、朝来ここにきたりおり
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)