繊々せんせん)” の例文
あはれ、この少女のこころはつねに狭き胸の内に閉ぢられて、こと葉となりてあらはるる便たつきなければ、その繊々せんせんたる指頭ゆびさきよりほとばしり出づるにやあらむ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「あなたは、この新月がお好きだそうでございますね、さきほど『長安古意』の、繊々せんせんたる初月、鴉黄あおうに上る……を口ずさんでおいでのを承りましたよ」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その間に繊々せんせんとしてかかる新月の美しさ。そうして、微かなるその新月の光に向いた山の峰が、涙の露を糸に引いたようなカーヴをかけているいじらしさ。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
あわれ、この少女のこころはつねに狭き胸のうちに閉じられて、ことばとなりてあらわるる便たつきなければ、その繊々せんせんたる指さきよりほとばしり出ずるにやあらん。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
琵琶湖の対岸の山々、雪は白し比良ヶ岳の一角から、法燈の明るい比叡の山あたりの連脈と見ておけばよろしい、その上の空へ繊々せんせんたる新月がかかりました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
満月が老い、朽ち、衰えて新月となるのではなく、満月ががれ、みがかれ、洗われ、練られ、鍛えられつくして、その精髄があの新月の繊々せんせんたる色と形とをとって現われるのであります。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)