紫衣しい)” の例文
いぬしたい、人は色にはしる。狗と人とはこの点においてもっとも鋭敏な動物である。紫衣しいと云い、黄袍こうほうと云い、青衿せいきんと云う。皆人を呼び寄せるの道具に過ぎぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
烏帽子えぼし直垂ひたたれ伶人れいじん綾錦あやにしき水干すいかんに下げ髪の童子、紫衣しいの法主が練り出し、万歳楽まんざいらく延喜えんぎ楽を奏するとかいうことは、昔の風俗を保存するとしてはよろしいかもしれぬが
教育と迷信 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
紫衣しいの貴人は静かに入ってきた。毅は洞庭君だと思ったのでうやうやしくおじぎをした。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
川越かわごえ喜多院きたいんに桜を観る。ひとえはもう盛りを過ぎた。紫衣しいの僧は落花の雪を袖に払いつつ行く。境内けいだいの掛茶屋にはいって休む。なにか食うものはないかと婆さんにきくと、心太ところてんばかりだと云う。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)