筍笠たけのこがさ)” の例文
「お気の毒ですけれど、殿さまはそんな方じゃありません、お客さんの云うことは、筍笠たけのこがさが冠の悪口を云うようなもんです」
と初さんは饅頭笠まんじゅうがさとカンテラを渡した。饅頭笠と云うのか筍笠たけのこがさというのか知らないが、何でも懲役人のかぶるような笠であった。その笠を神妙しんびょうに被る。それからカンテラをげる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そうして町の裏の、小さな明神社のうしろで包をあけ、継ぎはぎだらけの野良着を着、草鞋わらじをはき、筍笠たけのこがさをかぶった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
藤尾は雨支度がないので、合羽も笠も大助のを借りた、大助はみの筍笠たけのこがさで間に合わせた。宿を出てから提灯をつけた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それからまもなく、正四郎は蓑を着、筍笠たけのこがさをかぶり、尻端折しりっぱしょりのからずね草鞋わらじばきで、家から一丁ほどはなれた、道のつじに立っていた。三月下旬だから寒くはない。
その木戸を通って (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
筍笠たけのこがさかぶり合羽を着て、大きななべを提げた男が向うから来た。鍋蓋の隙から湯気が立っている、男は列の人々を眼さぐりしながら来たが、おせんを認めるとせかせか近寄って
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
白く乾いたほこり立った道を、こちらへ来る人影が眼についたのだ、筍笠たけのこがさを冠り、竹籠を背負っている、付近の農夫でもあろうかと思っていると、近寄って来たのは十七八になる娘だった
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)