筆耕ひっこう)” の例文
しかし文学士は名前だけで、その実は筆耕ひっこうだからな。文学士にもなって、地理教授法の翻訳の下働したばたらきをやってるようじゃ、心細いわけだ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
重吉は新聞の職業案内をたよりに諸処方々歩き廻った末、日当壱円五拾銭いちえんごじっせん筆耕ひっこうで我慢することにしたのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
安値あんちょく報酬ほうしゅう学科がっか教授きょうじゅするとか、筆耕ひっこうをするとかと、奔走ほんそうをしたが、それでもうやわずのはかなき境涯きょうがい
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
だが、弟子入りはないとみえて、露八は、筆耕ひっこう仕事をしたり、黄表紙きびょうしものの戯作げさくなどを書いていた。飽きると、ぽかんと、指の筆を頬杖ほおづえにやり、窓の机から今戸橋をながめている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
筆耕ひっこうをたのむものがあって、そんなことをしているのでした。
心の芽 (新字新仮名) / 小川未明(著)
大学を卒業して七八年にもなって筆耕ひっこう真似まねをしているものが、どこの国にいるものですか。あれの友達の足立なんて人は大学の先生になって立派にしているじゃありませんか
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)