みつ)” の例文
婦が言葉を尽して有難がる度に、爺は滅相めっそうもないとばかり両手を振った。「うふふ、何を云いなさるだね……」そして目を据えて宙をみつめる。
土城廊 (新字新仮名) / 金史良(著)
あれほど仲の悪かった二人が、相逢うた恋人同志のように、ものも得云わずみつめあっている様を見て、光政も思わず眼頭に熱いものを感じた。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
顎十郎は、ゆっくり一足進みよると、眼を据えて、穴のあかんばかり、藤波の顔をみつめていたが、唐突とうとつに口をひらいて
顎十郎捕物帳:05 ねずみ (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一同は雷に打たれたようにそれをみつめた。しかし物馴れたイワンは全く平気で語をついだ。
かの女は小さく繃帯ほうたいをしている片方の眼を庇って、部屋の瓦斯ガスの灯にも青年の方にも、斜に俯向うつむき加減に首を傾げたが、開いた方の眼では悪びれず、まともに青年の方をみつめた。
高原の太陽 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
痩せこけた頬にの血色もない、塵埃ごみだらけの短かい袷を着て、よごれた白足袋を穿いて、色褪せた花染メリンスの女帯を締めて、赤い木綿の截片きれを頸に捲いて、……俯向いて足の爪尖をみつめ乍ら
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
云われて高虎、しばらく池田光政の面をみつめていたが、やがてうなった。
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)