真闇まつくら)” の例文
旧字:眞闇
大音だいおんあげ、追掛おひかけしがたちまちにくもおこり、真闇まつくらになり、大雨たいう降出ふりいだし、稲光いなびかりはげしく、大風おほかぜくがごとくなるおとして座頭ざとうはいづくにゆきしやらむ——とふのである。
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、その可愛い狸の仔の姿は掻消かきけすやうに消えてしまひました。そして、森はまた元の真闇まつくらになりました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
と一緒にかさかさと慌てて逃げてゆく物音が、真闇まつくらに掻き消された亜鉛屋根から忍びがへしに飛び下り、忍びがへしから板塀の裏を転がるやうに辷り落ちるその迅さ、慌ただしさ……
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真闇まつくらな向ふの路次口に転がり落ちて逃げてゆく猫の滑稽な動作を想像した、而して急に勝ち誇つた感情の弛緩とさもしい皮肉な冷笑とが多少の可笑をかしみをさへ交へて私の心に突き上げてきた。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)