真砂座まさござ)” の例文
山崎紫紅やまざきしこう君の「上杉謙信うえすぎけんしん」が世に出たのも此の年であったと記憶している。舞台は真砂座まさござで伊井蓉峰君が謙信に扮したのである。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
水のうえには荷物船やぽっぽ蒸汽が忙しそうに往来し、そこにも暮らしい感じがあった。伊井や河合かわいの根城だった真砂座まさござは、もう無くなっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
浜町の家には、近くの中洲なかず真砂座まさござにたむろしていた、伊井、河合、村田、福島、木村などの新派俳優の下廻りが、どっちが楽屋かわからないほど入込んでいた。
濡れた水着のままでよく真砂座まさござ立見たちみをした事があった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
伊井蓉峰いいようほうの新派一座が中洲なかず真砂座まさござで日露戦争の狂言を上演、曾我兄弟が苦力に姿をやつして満洲の戦地へ乗り込み、父のかたきの露国将校を討ち取るという筋であったそうで
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
真砂座まさござ時代に盛っていて看板のよかったこのうちを買い取るのにいくらかかったとか、改築するのにいくらいくらいったとかその金の大部分が、今、中の間で寝ている姉の良人おっと
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
もともと千歳座があったが、中芝居ちゅうしばいであり、人気のあった中島座は小芝居ですでに焼けてほろび、中洲に真砂座まさござがあっても、歌舞伎の稽古けいこ芝居か、新派であったので、明治座はたいした人気となった。
山崎君は真砂座まさござに「上杉謙信」、明治座に「歌舞伎物語」、「破戒曾我」などを上演させた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それにもかかわらずこの辺一帯の地の利もすでに悪くなって、真砂座まさござのあった時分の下町情緒じょうしょも影を潜め、水上の交通が頻繁ひんぱんになった割に、だだ広くなった幹線道路はどこも薄暗かった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)