)” の例文
彼は絶えず、小びんの毛を掻きむしっては荒い吐息をつき、また、それにつれて刻み畳まれたしわが、ひくひくと顔一面に引っれくねってゆくのだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
おことの左の顔面筋がる。切られて居るのは右の肺部を刺し貫かれて居るのである。そこに古い手拭を巻きつけて居るのが真赤に染つて、見るも惨酷な様な光景である。
「あたし、だめらしい。足がってきた……情けないわね。こんなところで死ぬのかしら」
川波 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたくしもたいした事でもごぜえませんが、去年の暮の押詰りに寒さを引込ひっこみまして、少し疝気がおこって腰がりますので、商売しょうべえにも出られませんで引込んで居りますので、春はお忙しかろうと存じますが
といきなり滝人は、引っれたような笑みをうかべ、眼の中に、暗い疲れたような色を漂わした。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しばらく仮睡まどろんでから眼が覚めて、さて枕元の時計を見ようとすると、どうした事か、胸の所が寝衣ねまきの両端をとめられているようで、また、頭髪かみのけが引っれたような感じがして
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「す、すると、もうそれだけですか——貴方の降霊術ティシュリュッケンと云うのは? 机の脚をがたつかせて、いやに耳ざわりな……」とあの不気味な早熟児は、満面に引っれたような憎悪を燃やせて
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)