獰猛だうまう)” の例文
美しい神々しいおつな……獰猛だうまうな鹿田……富之助の頭のこの烈しい對照コントラストが更に幾多の不祥な聯想を呼んだ。或ものは鮮明に表象に現はれた。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
さうして今独逸ドイツを縦横にかつ獰猛だうまうに活躍させてゐるこの軍国主義なるものを、もつと遠距離から、もつと小さく観察したい。
点頭録 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その中に近づいて來たのは、三十五六の獰猛だうまうな武家、私慾と爭氣さうきをねり固めたやうな男ですが、その代りお國侍らしい單純さも、何處かに匂ひます。
また、海岸地方や谿谷けいこくの多くは、熱病の巣と云つてもよいほどであります。それから、猛獣や毒虫がはびこつてゐますし、奥地の方には、獰猛だうまうで危険な土人たちが住んでゐます。
アフリカのスタンレー (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
或は聖美なるもの、或は毒悪なるもの、或は慈仁なるもの、或は獰猛だうまうなるもの、宗教の変遷、思想の進達に従ひて其形を異にするが如しといへども、要するに二岐に分れたる同根の観念なり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いづれを見ても天草産の唐茄子面たうなすづらをした獰猛だうまうな怪物ばかりである。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
醜惡しうを獰猛だうまう暴戻ばうれいのたえて異なるふしも無し。
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
そのうちに立ち直る平次、二人が力をあはせさへすれば、金兵衞がどれほど獰猛だうまうでも及ぶことではありません。
青表紙あをべうしの化物のやうな瓢箪息子へうたんむすこが、毛むくじやらの大肌脱ぎに、取亂した獰猛だうまうな男が、首筋を刺されてフン反り返つて死んで居るのを見て、膽をつぶしたのは、まことに當然のことだつたのです。