猶更なおさ)” の例文
「だから、猶更なおさら恐ろしいのです。奴のやり口には、何だか途方もない、けたはずれなところがあります。決して尋常の敵ではありません」
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれども僕の其黒点の真相をとらえ得たのはずっと後のことです。僕は気にかかりながらも、これを父に問い返すことは出来ず、又母には猶更なおさら出来ず、ちいさな心を痛めながらも月日を送って居ました。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
表面は晩餐ばんさんの招待だったが、三人顔を合わせて食事をするのは、猶更なおさらたまらないと思ったので、用事にかこつけて食事をすませてから、やって来たのである。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、待つのは猶更なおさら恐ろしい。何とも云えぬいらだたしさに、彼女は息づまる様な苦悶を味った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
謂わば未曾有みぞう悪企わるだくみを考えつくに至った一つの重大な動機は、M県の菰田の地方では、一般に火葬というものがなく、殊に菰田家の様な上流階級では、猶更なおさらそれをんで
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、妙子にしては、二度も賊の為に恐ろしい目にあった記憶が去りやらず、不気味な宝石を見ては、猶更なおさらピアノなどに向う気持にはなれぬらしく、打ち沈んで辞退するばかりだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人がかつては恋の競争者だったことが、猶更なおさらこの反感を高めた。北川氏はその頃から、野本氏の後姿を一目見たけでも、こう、からだがねじられて来る程、何とも云えぬ不快を覚えるのだった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)