牴触ていしょく)” の例文
そういう勢力不滅の法則に牴触ていしょくする話が、政府のどのあたりまで受入れられたかは分らないが、とにかく困ったことになったものである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかしそれはまずそれとして何もそんなに心配せずとも或種類の芸術に至っては決して二宮尊徳にのみやそんとくの教と牴触ていしょくしないで済むものが許多いくらもある。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
必要な建築学上の規則に牴触ていしょくしない限りはあらゆる好きな格好のものを設計してもよいはずである。しかるに科学のシステムの設計はそう勝手にできるものではない。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
第三十二条 本章ニ掲ケタル条規じょうきハ陸海軍ノ法令又ハ紀律きりつ牴触ていしょくセサルモノニ限リ軍人ニ準行じゅんこう
大日本帝国憲法 (旧字旧仮名) / 日本国(著)
そんなに良心には牴触ていしょくしないで、かえって残忍性の快楽をそそるくらいのものでありました。
その内面生活と根本義において牴触ていしょくしない規則を抽象して標榜ひょうぼうしなくては長持がしない。
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人性に対する省察の深さ、思想の深さ、それは文学の決定的な本質であるが、それと戯作者たることと、牴触ていしょくすべき性質のものではないという文学の真実の相を直視しなければならぬ。
中世の伝説のミミラクの島は、まずこの一点において是と牴触ていしょくするところがない。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
既許のものとの牴触ていしょくを避けるため、かなり模様を変えねばならなくなった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
露店でくらう豚の肉の油揚げは、既に西洋趣味を脱却して、しかも従来の天麩羅てんぷら牴触ていしょくする事なく、更に別種の新しきものになり得ているからだ。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ただ現在の科学のかなり根本的な事実と牴触ていしょくするような空想と、そうでない空想との区別だけははっきりつけておいたほうが便利であろうと思ったからしるしておくだけである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
既許のものとの牴触ていしょくを避けるため、かなり模様を変えねばならなくなった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
相州の松田附近の松田総領・松田庶子もまたそれで、親がどういう風にその財産を見たかを示すのみならず、さらに利害の牴触ていしょくがいよいよ境を明らかにする必要を生じたことをも語るのである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
例えば勢力不滅の法則に牴触ていしょくするような発明は、未知のものであっても、それはやってみるまでもなく、嘘である。それが嘘であって再試の必要がないということが「存在する」ことなのである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
この極端なる画風は俳優を理想的の美貌と定めたる伝来の感情に牴触ていしょくする事はなはだしきがためこの稀有けうなる美術家をして遂に不評のために筆を捨つるのやむなきに至らしめき。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それで一見したところではごうもこの規約に牴触ていしょくしない——少なくも論理的には牴触しないような立派な付け句であっても、心理的科学者の目から見ると明らかに打ち越しの深い影響を受けたと
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)