片割月かたわれづき)” の例文
彼はつひに堪へかねたる気色けしきにて障子を推啓おしあくれば、すずしき空に懸れる片割月かたわれづき真向まむきに彼のおもてに照りて、彼の愁ふるまなこは又したたかにその光を望めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
雲一つなきそら片割月かたわれづきが傾いて、静かにシツトリとした夜気が、相応に疲れてゐる各々の頭脳あたまに、水の如く流れ込んだ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
図書 針ばかり片割月かたわれづきの影もささず、下に向えば真の暗黒やみ。男が、足を踏みはずし、壇を転がり落ちまして、不具かたわになどなりましては、生効いきがいもないと存じます。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所々降つて来さうな秋の星、八日許りの片割月かたわれづきが浮雲の端に澄み切つて、村は家並の屋根が黒く、中央程なかほどの郵便局の軒燈のみ淋しく遠く光つてゐる。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
寝る前の平生いつもの癖で、竹山は窓を開けて、暖炉の火気に欝した室内の空気を入代へて居た。げきとした夜半の街々、片割月かたわれづきが雪を殊更寒く見せて、波の音が遠い処でゴウゴウと鳴つて居る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)