牆壁しょうへき)” の例文
よいと云う牆壁しょうへきを築いて、その掩護えんごに乗じて、自己を大胆にするのは、卑怯ひきょうで、残酷で、相手に汚辱を与える様な気がしてならなかったからである。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
活溌に、希望に満ちて、スタスタと歩いて行った彼女は思いがけないところで、牆壁しょうへきに遮られた。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
春日夫妻という牆壁しょうへきの後ろにある葉子を、のぞき見ようとしていろいろに位置をかえて覗こうとするにも似た心持で、事務所で春日に金を渡して別れてから、幾日かたった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある日、中丞ちゅうじょうが来て軍隊を検閲するというので、一軍の将士はみな軍門にあつまり、牆壁しょうへきをうしろにして整列していると、かの鳥がその空の上に舞って来て、脛に負っている矢を地に落した。
河内の山脈を牆壁しょうへきとして自然の守りをなし、山陰山陽の両道は、四国九州の海陸路をここに結んで、四通八達の関門をなし、まさに、天下第一城の地として、たまた、天下に号令するところとして
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牆壁しょうへき聳ゆる
従来の牆壁しょうへきを取り払うにはこの機会があまりに脆弱ぜいじゃく過ぎた。もしくは二人の性格があまりに固着し過ぎていた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
城へ迫って五十余町のあいだ高い牆壁しょうへきを作ってしまった。そして渓流の水をせき入れて、道路の安全をはかる一方——持久戦の腰を示した。もろもろの防寨ぼうさいなどもすべて、半永久的に築いたのである。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
純粋な気象きしょうを受けて生れた彼女の性情からも出るので、そこになるとまた僕ほど彼女を知り抜いているものはないのだが、単にそれだけでああ男女なんにょ牆壁しょうへきが取りけられる訳のものではあるまい。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)