爪先上つまさきあ)” の例文
いずれかこの町もかかるたぐいに漏るべき、ただ東より西へと爪先上つまさきあがりの勾配こうばいゆるく、中央をば走り流るる小川ありて水上みなかみは別荘を貫く流れと同じく
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「豆腐屋があって、その豆腐屋のかどから一丁ばかり爪先上つまさきあがりに上がると寒磬寺かんけいじと云う御寺があってね」
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雪におおわれた野は雷電峠のふもとのほうへ爪先上つまさきあがりに広がって、おりから晴れ気味になった雲間を漏れる日の光が、地面の陰ひなたを銀とあいとでくっきりといろどっている。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
爪先上つまさきあがりの道を、平になる処まで登ると、又右側ががけになっていて、上野の山までの間の人家の屋根が見える。ふいと左側の籠塀かごべいのある家を見ると、毛利某という門札が目に附く。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二間余りを爪先上つまさきあがりに登る。頭の上には大きながかぶさって、身体からだが急に寒くなる。向う岸の暗い所に椿つばきが咲いている。椿の葉は緑が深すぎて、昼見ても、日向ひなたで見ても、軽快な感じはない。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)