とろ)” の例文
耳を澄ますと、四山の樹々には、さまざまな小禽ことりむれ万華まんげの春に歌っている。空は深碧しんぺきぬぐわれて、虹色の陽がとろけそうにかがやいていた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして流暢な軟かみのある語韻の九州には珍しいほど京都風なのに阿蘭陀訛のとろけ込んだ夕暮のささやきばかりがなつかしい。
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この五、六日の不安と動揺とが、だるい体と一緒にとろけ合って、嬉しいような、はかないような思いが、胸一杯に漂うていた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
我と我が身の心の戦ひ、独り角力の甲斐はなく、あはれやこれも先生が、慈愛の前にはころりころり。その抵抗力をひしがれて、夏も氷の張詰めし、胸はうざうざ感服と、感謝の念にとろけさうなり。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
三好 眼の玉がとろけちまやしないか?
好日 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
など知らむ、素肌すはだあせとろけゆく苦悩くなうおもひ
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雲はとろけてひたおもて大河筋おほかはすぢに射かへせば
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
壁はいたみ、円柱まろはしらとろけくづれて
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)