かくの如きの物語、六道りくどうちまた娑婆しゃばにあらはし、業報ごっぽう理趣ことわりを眼前に転ず。聞く煩悩即菩提ぼんのうそくぼだい六塵即浄土ろくじんそくじょうどと、呉家祖先の冥福、末代正等正覚まつだいしょうとうしょうがく結縁けちえんまことにかぎりあるべからず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この意味で道元は、「煩悩即菩提ぼんのうそくぼだい」の思想のうちに生活と理想との或る調和を造り出していた日本の仏教へ、再びあの原本的な「あれかこれか」を力強く引き戻したのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
生死即涅槃しょうじそくねはんと云い、煩悩即菩提ぼんのうそくぼだいと云うは、悉くおのが身の仏性ぶっしょうを観ずると云うこころじゃ。己が肉身は、三身即一の本覚如来ほんがくにょらい、煩悩業苦ごうくの三道は、法身般若外脱ほっしんはんにゃげだつの三徳、娑婆しゃば世界は常寂光土じょうじゃつこうどにひとしい。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
聖道門においては、「煩悩即菩提ぼんのうそくぼだい」とか、「生死即涅槃ねはん」とか教え、これらの言葉に究竟きゅうきょうの理法を托した。その前後に置く対辞は何なりとも、中に差挟まれた「即」の一字に凡ての密意がかかる。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)